雪山実技第二回・富士山五合目 2日目

起床〜朝食


5時半に目覚めた。小屋の窓には、びっしりと霜が付いていて、極寒の地に来ていることを実感する。

朝食は7時からなので、時間には余裕がある。身支度とトイレを済ませたあと、小屋周辺を散歩してみたが、カラダが慣れてきたらしく、寒さや空気の薄さは前日より和らいで感じられる。晴天で風は昨日より穏やか。
朝食は、うどん。昨晩の残りのカレーもあるので、好みによってカレーうどんにもできる。

滑落停止訓練


8時半より訓練開始。講師より、本日の訓練はハーネスが要らない判断になった旨、説明があった。改めてこの訓練の危険性が説明され、各自、気を引き締める。
アイゼン未装着のまま、33名全員が斜面の山側を向いて一列に並び、1人置きに5mほど登って、ジクザグの体制になった。ピッケルを両手で持ち、雪面に伏せて滑落停止姿勢を何度も練習する。
続いて、2班で1グループになり、1グループあたり11名、グループ単位の講習になった。ざっと見て、長さは20mくらいだろうか、斜面を滑るコースが決められ、1人ずつ順番にそこを滑る。コースの中間と終わりに講師が1名ずつ付いている。終わりに立った講師が合図の笛を2回吹く。1回目の笛が、滑り始めよの合図。2回目の笛は、滑落停止せよの合図だ。笛のおかげもあって、ここからはバリバリ体育会系、緊張感が漂う。
自分の番が来た。ピッケルを両手で持って斜面を背に寝転がり、足で踏ん張って待ち構える。ひとつ目の笛が鳴った! 足を上げて滑り出す。すぐに二つ目の笛がなる。瞬間、カラダをひねって反転、腹這いになるときの反動でバンッ!とピックを雪面に突き立てる。成功!ぴたりと止まったが、講師から「足上げて!」の声がかかった。しまった、もしもアイゼン履いての現実の滑落だったら、ひっかけて捻挫していたかも知れない。コース中間に立つ講師がそばに来て、私の足をつかんで引っ張った。腹が浮いてピッケルを握る手が負けそうになるが、ぐっと堪える。講師の手が緩み、「よし、OK」の声。ほっとして全身の力が抜けたのも束の間、「立つ前にキックステップで足場確保」の声を飛ぶ。指示通り起き上がってから、再び斜面を背に寝転がり、講師の笛でルート後半を滑った。後半の斜面はデコボコしていて、姿勢がふらついてしまう。二つ目の笛で反転しピックを突き立てたが、少し斜めになってスリップしてしまった。上半身を海老反って、反動を付け、再び、ガツン!と打ち込んでみる。今度は垂直に刺さり、なんとか止まった。さっきと同じように、ルート下の講師が来て足を持って引っ張る。「うん、気持ちはOK」との声。悔しい中にちょっと嬉しい気分だ。
滑り終わったら、また、滑り始めの高さまで登り返して、順番待ちの列に並ぶのだが、この登り返しがけっこうきつい。何しろ、滑落停止姿勢のため、全身をバネにありったけの力を出した後だ。ノーアイゼンなので、アイスバーンをキックステップで登らなければならないのだが、キックする力なんて、そんな残っていない。
グループの11名全員終えた後、次の一巡は、滑落距離を少し長くするという。二回目の笛が2〜3秒くらい遅くなった。自分の番で滑ってみると、この2〜3秒がまるで10秒くらいあるかのように長く感じられる。笛を待ってぐんぐん加速する時間が、本当に長く怖い。反転してガツン!とピックを突き刺すと、反動で腕が上ずってしまうが、姿勢が崩れる一歩手前で何とか止めた。講師が来て、今度は私の頭を持って顔を左向きに傾け「この姿勢で」と声をかける。そう、真下を向くと右肩が十分に下がらず、ピックに体重が乗り切らないのだ。
2〜3秒遅いのをもう一巡した後、次の一巡は、下まで通しで滑ることになった。これはもう、難しい以前にスピードの恐怖が一番の障害だと思う。きちんと反転しきる前にピックを刺してしまった。止めたというより、下まで滑りきってなんとか止まったという感じで、姿勢はもうグタグダになってしまった。
最後に、ザックを背負って滑ることになった。背中というよりお尻で滑る感じに近く、雪面と滑らかに接することができないため、すぐ止まってしまいそうだ。滑落距離を長くせず、すぐに反転するタイミングで訓練したが、やはり、ザックを背負うと反転するのがとたんに難しくなった。

初期停止訓練


滑落停止訓練を終え、10時半頃、各班単位での訓練に移った。さっきまで練習した滑落停止技術は、命を守るための最後の手段となるもので、何より一番大切な技術は滑落しない歩行技術だ。そして、二番目に大切なのが、初期停止技術だという。倒れる瞬間、滑落する前に止めることだ。登り、下り、右トラバース、左トラバース、それぞれのケースで滑って転倒した場合を想定し、ピッケルで流れを止める方法を練習した。
難しさを実感したのは、利き手を谷方向にしてのトラバースだ。岳連では雪山初級者向けにピッケルは必ず利き手で持つよう教えられている。左右の持ち替えは、相応のスキルを身に着けてからということのようだ。ピッケルを利き手で持っていると、利き手を谷方向にしてのトラバースでは、転倒した場合にピックを刺すことはできない。左手を添えてスピッツェを雪面に刺すことで、初期停止を行うことになる。堅いアイスバーンでは、叩き込む角度を正確に出さないと、スピッツェはなかなか食い込まず、苦労した。

下山

11時半頃、訓練を終え、休憩時間で行動食を摂った。12時半頃、アイゼンを装着し、下山開始。
中の茶屋で、チャーターバスに乗り込む。途中、コンビニに停車してくれたので、食料や酒を買い出し、バス車内はちょっとした宴会場の様相となった。
帰りの高速は渋滞もなくスイスイ進み、無事、新宿に到着。解散となった。