雲ノ平から水晶岳往復


明け方、目覚めるとどうも調子がおかしい。寝袋にくるまったまま、上体を起こしてみると、目がくらくらする。首を振ると目玉がふわふわする感覚、典型的な二日酔いの症状だ。まさかとは思ったが、昨日飲んだ500ml缶ビールの酔いが、まだ残っているらしい。どうせすぐ回復するだろうと思いつつ、今日の予定を考える。
まず、最優先で行きたいのは水晶岳だ。百名山のひとつであり、裏銀座の分岐点、標高2986メートルの高峰、山容のかっこよさ、「水晶」のスピリチュアル性など、水晶岳には魅力的要素が盛りだくさんである。
次に行きたいのは鷲羽岳だが、ここを組み入れると、往復のコースタイムで2時間10分の追加を要する。明日、三俣にテントを張ってから行くこともできるし、今この二日酔い状態では行動時間を抑えておくほうが賢明だ。帰ってきてもし時間が余れば、祖母岳(アルプス庭園)やアラスカ庭園と呼ばれる名所など、まだ行っていない雲ノ平周辺のスポットをまわってみる手もある。
水晶岳へのルートは、途中までが、明日の三俣キャンプ地までの帰路と重なる。帰路には二種類の選択肢がある。往路と同じ、直行ルートを採るか、それとも岩苔乗越経由のルートを採るかだ。直行ルートは、2日前に往路の登りで体力限界近い思いをしたが、帰路の下りでは体力的には楽になるものの、あの急斜面を重荷で下るのはかなり辛いだろうし、危険が伴うかも知れない。岩苔乗越経由のルートは、岩苔乗越から先の下りは傾斜が緩く安全な感じだが、岩苔乗越へ辿り着くまでには、祖父岳を登頂してさらにしばらく歩く区間が長い。今日の水晶岳への往復で、この岩苔乗越までのルートをを確認できれば、明日の帰路がずいぶんと安心できるものになるだろう。
考えがまとまったところで、朝食を摂る。メニューは、アルファ米の五目ごはん、ソフトふりかけの鳥玉そぼろ、シジミ入り味噌汁。
07時05分頃、キャンプ地を出発。昨日と同様、25リットルのサブザックでの軽装山行だ。しかしながら、昨日と違って足取りが重い。

ケガをしてもつまらないので、のんびり行くことにする。スイス庭園と呼ばれる名所のひとつへ寄ってみることにした。

スイス庭園への分岐点から5分ほどで木道の末端へ到着。ここがスイス庭園だ。ベンチがあり、見晴らしの良い場所である。上の写真は薬師岳。もちろん、水晶岳の山容もよく見える。

分岐点まで戻り、祖父岳へ向かう。途中、急斜面のトラバースでは、二日酔いのめまいで、すごく怖い。

祖父岳は、山頂への登りとしては緩やかなほうだと思うが、すぐに呼吸が激しく、心拍数も厳しくなってきた。二日酔いさえなければ、どうってことないはずなのに…。

8時30分頃、ひいひい言いつつ、なんとか祖父岳の山頂に到着。登り口の祖父岳分岐点から山頂まで、コースタイム30分のところ、27分要した。山頂は、簡単な道標とケルン群があるだけで、祠などはなく、えらく殺風景だ。

眺望は、黒部源流域と鷲羽乗越の上に槍ヶ岳がよく見える。

三俣蓮華岳の向こうには、笠ヶ岳の姿もある。

登ってきた道の方向を振り返ると、台地状の雲ノ平の地形がよく分かる。雪渓が残る右側面をトラバースしてきた。こうやってみると、やはり、かなりの急斜面だ。

山頂から下って岩苔乗越までのルートは、狭いハイマツの隙間を抜ける箇所や、小さな急下降箇所はあるものの、総じて楽な尾根道が多い。明日、重荷の帰路でも問題はなさそうだ。

正面に見えるのはワリモ岳。この写真の中央付近に岩苔乗越がある。そして岩苔乗越の少し上には、水晶岳へ向かうルートのワリモ北分岐点がある。

9時35分頃、岩苔乗越に到着。雪の影響か、ひどく傾いた道標だ。明日、下る予定の黒部源流域の向こうに、三俣蓮華岳が見える。

ワリモ北分岐点は、岩苔乗越から少し登った中腹の斜面にある。ここに荷物をデポして、鷲羽岳水晶岳へ登頂する人が多いようだ。

ワリモ北分岐を左に折れ、水晶岳へ向かう。道は緩やかで歩きやすい。

10時頃、雲が増えてきた。この後すぐ、槍ヶ岳は覆い隠されて見えなくなった。

しばらく歩くと、足元に水晶岳まであと15分の道標があった。

上に見るのは、野口五郎岳。その下に、布団が干された水晶小屋の屋根が見える。

水晶小屋から水晶岳までは、最初、ほぼ水平の尾根道が続く。

岩場にさしかかると、途端に険しい道となる。途中、ハシゴ場もある。

水晶岳山頂近くから見た、祖父岳(左側)と雲ノ平(右側)の全景。ひょうたん島のような形の台地だ。

山頂近くには、白い帯状の石英が含まれる石や砂がある。砂をこまめに探すと、透明でキラキラ光るものが…。持ち帰ってはいけません、その場で眺めるだけにしよう。

ちなみに、高山市本町二丁目の中村観石園には、こんな水晶が2個千円で売られていた。

11時20分頃、標高2986メートルの水晶岳山頂に到着。眺望は残念ながら雲が多く沸いていて、あまり良くなかった。


ようやく二日酔いが解消し、空腹状態。そろそろ昼食の時刻。水晶小屋名物の「力汁」をいただく。味噌味のけんちん汁に焼き餅が入っている。野菜がたくさん入っていて、おろし生姜風味で旨い!

掲示されていた「水晶小屋の歴史」。


主の伊藤圭さんの手記には、自然との過酷な戦いが記されている。

神棚にはご神体として水晶塊が祀られていた。

岩苔乗越まで戻った後、黒部源流域を少し下ったところの水場へ行ってみた。予想通り、傾斜は緩く、下まで楽に歩けそうだ。

ここが岩苔乗越直下の水場。黒部川の最源流となる水が涌き出している。飲んでみてびっくり、自分が今まで記憶した中でも、一番旨い水だと思う。水晶のように透明で、しかも自然の柔らかな味わいが素晴らしい。やはり、石英質の地質から染み出る伏流水は、最上級なのだ。

祖父岳の山頂手前、ハイマツ帯にライチョウが二羽いた。人にはあまり慣れていないようで、こちらに気付くと、とことこと逃げていく。

山頂を越した先にも、また別の固体のライチョウが二羽いた。こちらはオス・メスのペアのようだ。
16時10分頃、雲ノ平キャンプ地に到着。日没まではまだ時間があるので、アルプス庭園など行ってみる手もあるが、あいにくと雲が多くて眺望を期待できないため、今日の行動は終了とした。
夕食メニューは、3分茹でペンネに、レトルトのカルボナーラソースとマッシュルーム、そして粉末のトマトスープ。そろそろ飽きてきた。