紅葉の偵察で鏡平〜双六〜三俣へ

9月20日(金)〜23日(月)の3泊4日で予定通り、鏡平〜双六岳〜三俣蓮華岳を歩いてきた。出発時点の装備重量は33kg、久しぶりに充実装備の快適キャンプだ。

1日目 新穂高温泉→わさび平→シシウドガ原→鏡平

毎日アルペン号で前夜に東京竹橋を出発。前回快適だった三列シート車は予約いっぱいでとれなかったため、普通の四列シート車になった。やはり快適さとはほど遠い状態、しかも高速道では深夜の工事渋滞にはまってしまいバスはノロノロ運転。寝不足のまま、午前6時過ぎにようやく新穂高温泉バスターミナルに到着した。

バスターミナルはまだ改装工事が続いていて、板塀の仮設トイレだけの風景だ。案内板によると、来年1月に新しい新穂高センターが完成するらしい。バス待ちの間、休憩ができる建物にはなりそうだが、食事や入浴の設備は書かれてなくアメニティーはあまり期待できないようだ。
朝食を摂った後、パッキングを整えて、左俣林道に入った。ひんやりした秋晴れではあるが、寝不足が効いて大変に辛い。わさび平小屋前のベンチで1時間ほどウトウトと眠った。

小池新道入口まで来ると、強い日差しが照り付けて暑い。例年、この時期は曇りや小雨のことが多く、こんなピーカンで登り始めるのは滅多にないことだ。風が抜けない小池新道は、秋になっても厳しく暑い道だった。秩父沢で少し早めの昼食を摂り、また1時間ほど仮眠。このノロノロペースではどう考えても今日のうちに双六まで歩けるとは思えないので、鏡平で泊まることにする。そう考えたら気が楽になり、景色を楽しみながら木陰でときどき休んでクールダウンしつつ、ゆっくり歩くことした。イタドリガ原を抜けてシシウドガ原まで歩く道はぐんぐん高度を上げるので、少しずつ色付き深まる植生の変化が楽しい。過去、この時期に何度も来ているが、目視での景観は最高の条件だと思う。ただ、ピーカンの空と中途半端に色付き始めた植生は、写真にしようとすると難しい。

シシウドガ原では、その名の通り、シシウドの群落が一斉に満開の花で、圧巻の眺めだ。過去、このタイミングで来たときは天気の悪い日ばかりで、薄暗いガスの中で見るシシウドの花の大群にはちょっと恐怖を感じた記憶がある。晴天の下で見るとまるでイメージが違うのは不思議だ。シシウドの風景を撮影してみたが、この場所で晴天の午後の光は向かないようで、どうも良い写真にはできなかった。その後、ここでも軽く仮眠をし、午後3時になったので電話で午後4時半頃に到着する旨、鏡平山荘に連絡を入れた。
熊の踊り場手前に新しい指導標が立っていたが、ペンキの匂いに惹かれたのか、囓られた跡が付いていた。ここはその名の通り、熊の通り道にもなっているのだろうか。

鏡平山荘に着いて軽く休憩した後、鏡池で夕暮れの槍穂高を撮影してみた。ピーカンの空で画的な面白みはないが、地平線の太陽を遮る雲がないおかけで山稜はよく色付いた。
夕食の後、山荘の方から月が槍の肩から出るというお話を聞いて、再び鏡池で夜景の撮影を試みた。確かに槍の北鎌側の肩から月が出てきたのだが、雲ひとつない夜空の逆光では残念ながら良い写真にできなかった。肉眼では見事な風景なのだが、カメラには明暗差が厳しすぎた。

2日目 鏡平→弓折岳→秩父平→弓折岳→双六池キャンプ地


2日目は、夜明け前に稜線まで上がることを考えていたが、夜明け前の空を見たところ、ちょうど良い感じに薄雲が出ていた。これはイケる!と感じ、鏡池で撮影を試みることにした。期待通り、槍穂の稜線の上には朱鷺色の薄雲がたなびき、それが池の水面にも鏡像を作ってくれた。泊まった甲斐があった。
朝食は山荘ではなく持参の行動食を池の畔で済ませた。もともと全テント泊の予定だったところに小屋泊をしたので、なるべく食糧を減らしたかった事情もある。

6時半頃に鏡平を出発し、途中で撮影をしながら1時間半ほどで弓折乗越に到着。弓折岳の山頂では、ナナカマドの実が赤く色付いていた。遅くまで雪渓に覆われた場所ではきれいで元気な緑の葉が残っている。

しかし、早くから雪が溶けた稜線で乾きと風に晒されたナナカマドは枯れ葉が目立っていた。ざっと全体を見ての割合は、枯葉の木が8割、青葉の木が2割といった感じだろうか。

この日は当初予定していた通り、弓折乗越にザックをデポし秩父平まで往復してみることにした。大ノマ岳の山頂から抜戸岳の方を眺めると、焼岳や乗鞍岳も良く見える。大ノマの肩の東斜面は黄葉が美しい。

秩父平のカールでは、草紅葉が始まっていた。緑と黄の色変化が白い岩に好コントラストを魅せる。しかし、できることなら加えて秋雲が欲しいところだ。

秩父岩の方向の空には雲が出ていたが、中途半端な逆光で写真的にはいまひとつ。午後の斜光のタイミングを狙いたいが、長居をしていると双六でテントを張る場所が心配になるので、11時過ぎで切り上げることにした。

大ノマ岳の北側稜線は、雪溶けが遅かった影響で傷みの少ないナナカマドが比較的多かった。今後の冷え込み具合によっては枯れる恐れもあるが、もしも10月初めまで持ってくれれば、美しく染まった紅葉を期待できそうだ。

大ノマ岳の北側斜面では、驚くべきことに、まだ花を開いたばかりのきれいなコバイケイソウもあった。ここは8月中旬に来たときも雪渓が残っていた場所だ。
弓折乗越に戻ると、さすが連休初日、多くの人でいっぱい。行動食を摂った後、双六へ向かった。花見平はすっかり雪渓が溶けて、剥き出しの砂地に変わっていた。池塘の花はもう枯れている。

稜線から見た双六池キャンプ地は予想した通り、テントでいっぱいだった。でも現地に着いてみると、意外に空き地も残っていて、無事に場所を見つけることができた。双六小屋でキャンプ受付の後、生ビールを1杯飲んで軽く休憩。テントを設営した後はそのまま夕食にした。焼きそばにシャウエッセンと冷凍野菜パックに加え、余りそうだったヨード卵光も投入、ちょっと贅沢な内容になった。夕刻の撮影は、人が多く疲れそうだったのでパスした。

3日目 双六池キャンプ地→双六中道→三俣山荘→双六巻道→双六池キャンプ地

この日は三俣まで歩いてみることにした。コースタイム的には水晶岳まで往復できるが、今回は紅葉の撮影下見に集中するため三俣までの往復とする。
夜明け前の空はほどほどに雲が出ていて美しく染まりそうだった。人が少なければ樅沢岳に登って撮影しても良いが、恐らく連休中日なので西鎌尾根に向かう人で狭い稜線は混雑しそうだ。もちろん、三脚を立てる人も少なからず居るはず。体力温存も考え、前夕と同じく夜明けの撮影はパスした。
朝食はスクランブルエッグライスを作った。材料は、刻み玉ねぎ、半熟炒めのヨード卵光、サトウのご飯、チャーハンの素、エクストラバージンオイル。トマトスープもあったが、何となく味噌汁を添えて、自分好みの朝食が出来上がり。食べ終えてコーヒーを飲み軽く休憩した後、7時頃に出発。

双六中道から稜線に向かう途中、適度に秋雲の広がる空がきれいだ。

朝の逆光で綿毛のチングルマを撮ってみた。正直言って、最近の自分は夕焼け・朝焼けの撮影よりもこうした撮影のほうが楽しい。「写真をうまくなりたかったら、構えて奇跡を待つんじゃなく、歩きまわって自分の感性を磨きなさい」というのは、とある方からいただいた言葉であるが、その過程の楽しさを本当に実感する。

中道から稜線に出る少し手前で、二羽の雛を連れた雷鳥のお母さんがいた。岩の上で空の猛禽類に警戒しながら、餌をついばむ雛たちを見守っている。日差しの照る空だが、堂々と雷鳥が姿を見せるということは、これからの天候はあまり芳しくないのかも知れない。

稜線から丸山を通って三俣蓮華岳の山頂へ。雲ノ平から黒部源流域の様子を眺めてみると、紅葉にはまだ早い様子なものの、枯れ色も見える。やはり、今年の紅葉は厳しそうだ。遠景は恐らくくすんだものになるだろうが、雪解けの遅かった場所は前景として十分に映えるものがあるはず。写真的には玄人好みの紅葉と言えるのかも知れない。

撮影下見の目的からは三俣の山頂から折り返し帰っても良いのだが、せっかくなので三俣山荘へ降りて昼食をいただくことにした。北側斜面を降りていくと、やはり、ナナカマドは枯れ葉が目立つ。キャンプ地は双六と違って意外に空いていた。夏に比べると日が短くなってきているので、ここまで来る人は減ってしまうのだろう。
三俣山荘の展望食堂でカレーライスをいただいた。残念ながらオムライスとケーキは売り切れていた。山荘の方の話によると、山荘泊まりの人は少ないがテントの人が多くケーキがたくさん売れるとのこと。ケーキなしだが、サイホンで淹れた美味しいコーヒーをいただいた。

展望食堂で休憩中、槍に良い光と雲が来たので、大急ぎで望遠レンズを付けて撮ってみた。赤茶けた硫黄尾根が前景に入ったこの槍の眺めは、とても好きだ。

三俣からの帰路は、巻道を歩いた。この付近はハイマツの海に浮かぶナナカマドの島が美しく映える。枯れ色の島が多いが、中には期待できそうな元気な葉の島も見える。

夏に見事な花の群落を魅せたコバイケイソウたちは、黒い実の穂を付けていた。空は雲が広がり、日差しが遮られるようになった。

巻道分岐点まで戻ると、雲が降りてきて双六山頂方面はまったく見通しが効かなくなった。この時点でキャンプ地など低いところはまだ見通しが効いたが、夕方には一帯がガスに覆われるだろう。もしも見通しが期待できるなら双六岳台地に上がって夕暮れを待つことも考えていたのだが、期待できないのでそのままテントに戻った。
甘い物を食べたくなったので、フリーズドライのイチゴとブルーベリーとスキムミルクで簡単なおやつを作った。疲れによく効く甘味物だ。双六池キャンプ地はケータイが圏外なので、AMラジオを休憩のお供にして過ごす。夕食は前日と同じく焼きそばにした。持ち込んだ食材ではリゾットやグラタン、ラーメンなども作れるが、今回は焼きそばが俺的ヒット。

4日目 双六池キャンプ地→樅沢岳→弓折岳→鏡平→新穂高温泉

深夜0時過ぎ、トイレのためテントを出てみると、満月を少し過ぎた明るい月に照らされ、美しいうろこ雲が空一面に広がっていた。双六小屋から鷲羽岳方面を見てみると、夕方のガスが沈んで標高の低いところは雲海で覆われている。今、樅沢岳に上がれば、素晴らしい絶景が見られそうだ。一瞬、カメラを持って上がろうかとも考えたが、月の方角と高さから恐らく槍穂にはベタ光が当たる形だし、雲海も陰影が緩く写真映えはしなさそうだ。昼間の撮影歩きでかなり疲れていたので、素直に寝ることにした。

午前3時半に目覚めると、疲れはまずまずとれた感じなので、コーヒーを飲んだ後、樅沢岳に登ってみた。予想通り、三脚を立てて夜明けを待つ方がすでに1名いらっしゃった。深夜に見たうろこ雲と雲海はすっかり消え、目の前に広がるのはピーカンの空と逆光の稜線、そして剥き出しの台地のみ。しばらくすると、御来光を臨むため何人もの方が上がって来られた。日の出待ちの間は暇になるのか、そうした方々からいろいろ話しかけられてしまう。何もしていないように見えても、こちらは撮影のシナリオをいろいろ頭に描いているわけで、適当に相づちを打つ程度で済ませるのだが、「条件が揃うまで重い機材担いで何度も通うんでしょ、大変だねえ」とか言われると「はい、そうですね」とも言えない話になってくる。やっぱり来るべきじゃなかったなあと後悔しながらも「写真というのは自己表現を考えて撮るものなので、奇跡を待つばかりが素晴らしい山岳写真の手段じゃないんですよ」と言ってみた。「○○先生の写真とか、一度も見たことない素晴らしい瞬間の写真ですよ」と来たので、「そういう写真もあります。でも、○○先生も大部分の作品は、誰もが見る風景を誰もが気付かない感性でカタチにしたものだと思いますよ」と返してみると、どうも納得いかないといった表情をされていた。「真っ赤な写真はもう卒業しましょう」という言葉をふと思い出した。

日の出前の一瞬、笠ヶ岳に滝雲がかかったのだが、日の出の瞬間には残念ながら消えてしまった。
キャンプ地に戻り、朝食を作る。これも積極的嗜好で前日と同じスクランブルエッグライス。食事を終えて軽く休憩の後、テントを撤収。久しぶりにフライシートを使ってみたが、二晩ともテント本体の内壁はまったく結露することなく、すこぶる快適だった。554gの重さを嫌って最近はシングルウォールでしか使っていなかったが、前室空間も含めてやはりダブルウォールの利点は大きいことを実感した。

撤収を終えて8時半頃に双六池キャンプ地を出発、弓折乗越経由で鏡平へ向かう。たくさんあったテントのほとんどはすでに撤収済み。自分は最終に近いだろう。

明け方の様子で湿気の抜けない雰囲気を感じたが、やはり、稜線では早い時刻から雲が湧き出してきた。弓折〜双六だけは見通し良いものの、笠ヶ岳や槍穂高鷲羽岳など周り一帯の山頂は雲に覆われてしまった。

鏡平からの景観も雲だらけ、しかも蒸し暑い。鏡平山荘で牛丼とかき氷をいただいた後、11時半頃、新穂高に下山開始。

シシウドガ原からイタドリガ原へ降り始めの道は、以前、ジグザグルートと直登ルートの二本があったのだが、最近は直登ルートの案内がなくなりジグザグルートのみ使われるようになった。直登ルートは雨が多い年は崩れやすく使えなくなってしまうそうだが、雨が少ない今年は直登ルートが生きていた。下草もきちんと刈られ整備されていたので、案内板を立てれば良いのにと思ったのだが…。直登ルートは、シシウドの花畑のど真ん中を通る道なので、天候に恵まれたこの時期にはとても楽しいルートだ。狭い道なので、人が通るときに三脚は迷惑になるので立てられないと思うが、良い写真を撮れる場所になるはずだ。しかし、自分の至らない感性と通りすがりの取り組みでは、結果がいまひとつ冴えない。来年以降でじっくりリベンジしてみたいと思った。

わさび平小屋を過ぎ中崎橋を渡る手前で、治山工事のヘリが飛んでいた。冬期の雪崩で上岩小屋沢の急斜面が大きく崩落したため、モルタルボンドを噴射して修復しているとのこと。
新穂高温泉にはいつもよりずいぶん遅く、午後3時過ぎに到着した。疲れて足のチカラが十分に入らず、早足では転びそうな怖さを感じてしまったことが、遅くなった原因だ。久しぶりの30kg超えだったこともあるが、今回は昼間の写真撮影で思いのほか体力を消耗したと思う。その代わり、下見をしっかりできたので、紅葉本番のときは効率よく撮影に取り組めるはずだ。