コバイケイソウ咲く夏の双六三俣

8月2日(金)〜5日(月)の3泊4日で予定通り、鏡平〜双六岳〜三俣蓮華岳〜黒部源流域〜鷲羽岳を歩いてきた。

1日目 新穂高温泉→鏡平→双六池キャンプ地

二週間前と同じく、京王の深夜高速バスで新宿を前夜23時に出発、明け方前の3時半頃に平湯温泉に着いた。今回は自分以外にも新穂肩温泉に向かう登山者が何人もいて、始発の路線バスを待たずにタクシーで相乗りする相談がまとまり、タクシー1台に客5人で相乗りさせていただくことになった。平湯から新穂高温泉まで路線バスなら870円だが、今回は1,600円×5人の計算。普通は6,000円程度らしいが、深夜料金扱いで8,000円になった。濃飛タクシーの運転手さんを含めて中型車に6人で乗ったためキツキツだったが、3時間以上も早く出発できるのはありがたい。

午前4時15分頃、タクシーは新穂高温泉に到着。身支度を調え、4時半頃、左俣林道の入口から出発した。歩き始めはまだ暗かったが、ヘッドライトが必要なほどではなかった。歩き始めるとみるみる明るくなり、特徴的なツルアジサイなど夏の風景が目に飛び込んでくる。

持参のおにぎりをわさび平小屋で食べトイレを済ませ、軽く休憩の後、午前7時頃、小池新道入口より登山開始。雨は降っていなかったが、朝靄に包まれあまり遠望は利かない。予想通り蒸し暑く、Tシャツ+ニーパンツ姿で正解だった。二週間前とは違って登山者がとても多い。長雨続きの後でようやくやってきた晴天の予報に、多くの人が期待しているようだ。長雨が続いた割には、雪解けは二週間前からそれほど進んでおらず、シシウドガ原のベンチはまだ雪に埋もれていた。熊の踊り場の木道も、一部分は雪が被っている。

10時半頃、鏡平に到着。鏡池の畔のコバイケイソウは一番の見頃を迎えていた。槍穂高はまったく見えないが、シラビソの木々が霧に包まれ幻想的な姿を見せる。

鏡平山荘で少し早い昼食の牛丼をいただき、日差しを待ちつつ休憩の後、12時10分頃、幕営予定地である双六に向け出発した。弓折尾根は二週間前からさらに高山植物の開花が進み、カメラを持っているとなかなか足が進まない。爆発開花したコバイケイソウとともに、クロユリハクサンイチゲなど、さまざまな花々が目を楽しませてくれる。遠望は利かないので、接近してのマクロ撮影に勤しんだ。今回はギア雲台付きの大きな三脚を持ってきたが、大活躍。足の伸縮など小型三脚よりも操作しやすくていい。

弓折乗越もひっきりなしに登山者が訪れて絶えない。自分の記憶では、8月に入ってこんな残雪を見るのは初めてだと思う。

花見平のベンチで軽く昼寝した後、池塘に咲く花々をじっくり撮影。稜線のコバイケイソウはすでに盛りを過ぎたようで、枯れ色が見られるようになった。

16時頃、ときおりブロッケン現象が現れる中、ようやく稜線の曇りが晴れ、青空とともに槍の穂先が姿を見せるようになった。西日に照らされてコバイケイソウも美しく輝いている。絶景とは、まさにこのことを言うのだろう。
ひととおり撮影を終え、稜線から双六谷に降りてみると、ここでもコバイケイソウがいっぱい。翌日は日没前に双六岳中腹まで上がることを計画していたが、この風景を見てしまうと、朝の光で双六池周辺のコバイケイソウを撮りたく思った。

17時半頃、双六池キャンプ地に到着。多くのテントでいっぱいだったが、場所にはまだ余裕があり、ほっと一安心。

2日目 双六池キャンプ地→双六岳→稜線ルート→三俣蓮華岳→三俣キャンプ地


夜明けとともに、撮影機材を持って双六池周辺を撮影。朝露でツヤツヤしたコバイケイソウの白い花穂が辺り一面に広がる様子は、まさに圧巻だ。双六池に逆像が映る笠ヶ岳や、双六岳の中腹に残る雪渓の煌めきなど、夏山の魅力が満ちあふれている。

ひととおり撮影を終えた後、テントをたたんでパッキングし、7時半頃、次の幕営地の三俣に向けて出発。双六中道で9時頃に来る半逆光を狙うことにした。

巻道分岐点まで上がってみると、新穂高方面には雲海が広がっていて、雲海から穂高や焼岳が頭を出す素晴らしい景観だった。これだったら、もっと早い時刻に上がるべきだったと悔やんだが、仕方ない。

雲海は毎年チャンスがあるが、今は数年に一度しかないコバイケイソウを狙うべきだと思い直し、コバイケイソウを前景に半逆光の稜線が映える場所を探し歩いた。

中道分岐点では、春ルートを採るよう注意掲示があったが、夏道の雪渓が融けてちょうど開通したらしく、普通に夏道を進む登山者たちの姿が見えた。撮影を楽しみながら中道を登り稜線まで到達すると、ちょうど雲が登って槍の前景に入り始めた。もしかするとチャンスかも?と思い、予定していなかった双六山頂まで撮影装備だけの空身で行ってみることにした。

双六山頂に着くと、まさにちょうど、槍の穂先が雲を割るような位置に来た。急いで三脚をセットし、撮影成功! 西の空にはちょうど良い背景の雲海が広がっていたので、三脚とセルフタイマーで久しぶりに自分撮りも楽しんだ。
双六岳から丸山へ至る稜線は、豊かな植生で別天地のような景観が広がっているのだが、今年はどうも稜線の積雪が薄く水不足で、枯れ色が目立った。期待していた撮影ポイントはイマイチ。そしてほどなく、空一面が雲で覆われてしまった。

雨が降る気配はないので、丸山南側の稜線で昼食を摂ることにした。牛乳代わりにスキムミルクをシェイカーで溶いて、フルーチェを作り、パンと一緒に食べた。フルーチェは100円ローソンで売っている小サイズのプチフルーチェが1人用にはちょうど良いのだが、今回持ってきたのは普通のスーパーで売っているフルサイズのフルーチェ、600mlのチタンマグいっぱいの量。大食漢で甘いもの大好きな自分でも、さすがにこれは多過ぎた。

13時半頃になると、稜線を覆っていた雲が晴れてきた。三俣蓮華岳の南東側斜面には、まだ雪渓がたくさん残っている。

槍ヶ岳は相変わらず雲に覆われていたため、三俣蓮華岳の山頂で軽く昼寝をして時間を過ごした後、三俣峠から下ってみると、ちょうど槍の穂先が見え始めた。絶好のシャッターチャンスに恵まれた。

三俣キャンプ地には15時30分頃に到着。夕暮れには槍の穂先だけが赤く染まったが、周りの雲はあまり美しく染まらず、いまひとつの景観だった。

3日目 三俣キャンプ地→黒部源流域→岩苔乗越→ワリモ北分岐→ワリモ岳→鷲羽岳→三俣キャンプ地


金曜日時点の天気予報では月曜日まで晴天が続くことになっていたのだが、3日目となる日曜日の朝は、見事に予報が外れて雨。トイレに行くため午前1時頃にテントの外へ出たときは、きれいな星空が見えていたのに…。テントに居ても退屈なので、三俣山荘の展望食堂で天候の回復を待つことにした。クリームチーズケーキセットをオーダーし、写真集などを眺めて過ごす。ここのケーキは大きくて美味しく、サイフォンで入れた本格コーヒーもとても旨い。

11時頃、ちょっと早い昼食のカレーライスを食べ始めたら、みるみる空が明るくなり始めた。急いで食べ終えて身支度を調え、撮影機材を持って黒部源流域に向けて出発。

予想通り、黒部源流域に降りる沢沿いの道は、咲き誇るコバイケイソウがたくさん。斜面にびっしり生えていたり、車田のように規則的な並びだったり、本当にすごい。

黒部源流域では、ぶ厚い雪渓がまだ残っていた。これで青空が出てくれたら最高の景観なのだが、残念ながら空はまだ曇っている。

源頭に向かって少し登ったところで、青空が見えてきた。撮影のため、急いで降りて雪渓の端まで戻ろうかとも思ったが、またすぐ雲に覆われそうな気配もあるので、無理はせず、ここで撮影することにした。祖父岳の南側斜面に残る白い雪渓とクリーム色のコバイケイソウの絨毯が素晴らしい。

沢沿いにさらに登ると、クルマユリの群落が現れた。すみれ色のハクサンフウロや白いナナカマドの花などとともに、大自然の花園が広がっている。

源頭に近付くにつれ沢幅は少しずつ狭くなり、植生も変化する。コースタイム1時間の道筋だけど、短時間で駆け抜けるのはあまりにもったいない天国の道だと思う。

毎度恒例、源頭直下の水場で最高に美味しい水も確保した。三俣キャンプ地の水場とは比べものにならない旨さなので、プラティパスにたっぷり詰めて持ち帰り。

岩苔乗越でもコバイケイソウがたくさん咲いていたが、やはり稜線なので枯れ始めの様子だった。この付近のコバイケイソウは背の低いことが特徴的。

ワリモ北分岐の指導標は、もっと傾いて立っていた記憶があるが、今年はきっちりまっすぐに立っている。積雪期は抜かれて保管されているのだろうか?

ワリモ岳の山頂に着くと、雲が厚く暗くなってきた。

鷲羽岳の山頂に着いてすぐ、とうとう雨が降り出した。天気が良ければ鷲羽池まで降りてみたかったのだが、今回もおあづけ。

三俣山荘まで降りてみると、視界が開けてきた。鷲羽岳の中腹から山頂が雨雲に覆われていたようだ。夕暮れを迎える頃にはキャンプ地一帯もガスに包まれ視界が利かなくなった。

4日目 三俣キャンプ地→三俣峠→双六巻道→双六小屋→弓折乗越→鏡平→わさび平→新穂高温泉


朝から本降りの雨。三俣から新穂高まで一気に下山なので早朝5時に出発。水がちょろちょろ流れる三俣の中腹でも、立派な沢のように水量が増えている。三俣峠でも一切展望なしのため、躊躇無く巻道ルートを選択。

双六巻道からダラダラの坂を下って行くと、ここでもコバイケイソウの爆発開花がすごい。稜線の花よりも背が高く、実に見応えがある。

双六小屋に着く頃には、文字通り、土砂降り状態になった。小屋でポカリスエットをいただき、30分ほど休憩。双六谷から弓折稜線に上がったところには、熊注意の立て看板と叩き用の一斗缶が置かれていた。2日前に通ったときはなかったし、それ以前に見たこともない。下山してから報道を見て知ったが、8月3日にこの付近で熊と出遭ってしまった登山者がケガを負ったとのこと。

毎日新聞>北アルプス:登山中にクマと遭遇、男性軽傷
http://mainichi.jp/select/news/20130804k0000m040058000c.html


鏡平山荘に着く頃には、雨は小降りになった。暖かいうどんを食べ、1時間ほど休憩。夏の小池新道は、カンカン照りよりも小降りのほうが涼しくて快適だ。合羽を脱いで雨傘で歩きたいが、残念なことに3日前、樹林に傘の先をひっかけた拍子に傘骨を折ってしまったので使えない。
わさび平小屋でトマト・キュウリ・リンゴをいただき、元気回復。ゆっくり歩いて14時50分頃、新穂高温泉へ無事に下山完了。