被写界深度の計算
表現写真を撮るための重要な技術のひとつとして、被写界深度のコントロールが挙げられる。特に山岳写真の場合、意図した近景から無限遠までをピント範囲に収める技術「パンフォーカス」を使いこなすことが大切だ。今年8月初めの山行では、山岳写真界の最高峰に立つ方々から直接ご指導いただける機会があり、実地でパンフォーカスの撮影感覚を教わることができた。今、この場所であれまで入れようとする、だったら絞りはいくつでピントは向こうのそれに合わせる、といった感じだ。このとき重要になるのが視点の高さで、前景と遠景の三次元的な構図バランスをうまくまとめるセンスが大切になる。構図を二次元ではなく三次元で捉える感覚こそが、素人と玄人の違いだとつくづく感じた。三脚を立てる場合、アイレベルに高さを合わせる人が多いが、構図に合った高さを設定できなければ表現写真家としては失格ということだ。
しかしながら、長年の経験で計測器のような感覚を身に付けた方々と同じく撮ることは、自分にはまだ無理だ。そこで活用したいのが被写界深度の計算器だ。ネット上には算出式やWebアプリなどが公開されていて大変ありがたいが、山岳地で使いやすそうなものとしてAndoroidスマホ用のアプリを使ってみることにした。いくつか試した上で良いと思ったのが、上の画面の「Depth Of Field Calculator」というアプリだ。
Google Play > Depth Of Field Calculator
http://play.google.com/store/apps/details?id=cn.kamakama.android.dof&hl=ja
基本的には合焦位置(カメラから被写体までの距離)を入力して使う形だが、Diagramボタンを押すことで距離関係の図が表示される。指定した合焦位置パラメーターによる図の下に、無限遠を確保する場合の必要条件も見ることができるのが、非常にありがたい。これを使って、Pentax APS-Cカメラにおける実例を算出して表にまとめてみた。
レンズ | F4 | F5.6 | F8 | F11 | F16 | F22 |
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14mm | 2.46 | 1.76 | 1.24 | 0.90 | 0.63 | 0.46 |
17mm | 3.63 | 2.60 | 1.82 | 1.33 | 0.92 | 0.67 |
20mm | 5.02 | 3.59 | 2.52 | 1.84 | 1.27 | 0.93 |
30mm | 11.30 | 8.07 | 5.66 | 4.12 | 2.84 | 2.08 |
35mm | 15.30 | 11.00 | 7.69 | 5.60 | 3.86 | 2.82 |
50mm | 31.30 | 22.40 | 15.70 | 11.40 | 7.86 | 5.73 |
70mm | 61.30 | 43.80 | 30.70 | 22.30 | 15.40 | 11.20 |
100mm | 125.10 | 89.40 | 62.60 | 45.60 | 31.40 | 22.80 |
135mm | 227.90 | 162.90 | 114.00 | 83.00 | 57.10 | 41.60 |
250mm | 781.50 | 558.30 | 390.90 | 284.30 | 195.60 | 142.30 |
最遠ピント範囲を無限遠とした場合に、それぞれレンズの焦点距離と絞り値から得られる合焦位置を、メートル単位で示している。そして、合焦位置をほぼ半分にした値が、最短ピント範囲になる。
絞りを絞るほうが手前まで合焦位置が延びるのは当然だが、それ以上にレンズの焦点距離の選択がとても大切なことも読み取れる。例えば、20mmと30mmでも合焦距離は倍以上の違いだ。
絞りを絞れば回折ボケの問題が生じるので、デジタルAPS-Cの場合は一般的にF8までに絞りを止めることが望ましいと言われているが、画質と意図した被写界深度とどちらが大切なのか? 「作例ではなく表現作品を撮りたいのだったら、優先すべきは被写界深度だ」というのが、達人より教わったことでもある。