雪山撮影での課題


上記の写真は、今回の燕岳登山で持ち込んだ撮影機材一式だ。
カメラボディーはPentax K-5とK-20Dの2台体制。レンズはPentax DA10-17mmF3.5-4.5 Fish-Eye、DA17-70mmF4、DA☆60-250mmF4の三本とし、K-5に17-70mmを、K-20Dに60-250を常時マウントしてレンズ交換なしに撮影した。三脚はManfrottoの190CXPRO4、雲台は804RC2でパンスティックを短いものに交換改造している。そして、Gitzoの三脚用スノーシューを使用。これらに交換用バッテリーとレンズ用フィルターなどを合わせ、7.2kgとなった。

カメラボディー

Pentax K-5とK-20Dは二世代違うモデルだが、今となってはK-20Dの古さは否めない。画素数はそれほど違わないが、K-5は撮像素子のダイナミックレンジと高感度ノイズが圧倒的に向上し、オートフォーカス精度も高い。ライブビューでの操作性、視野率100%ファインダー、電子水準器など、機能面の強化ポイントも盛りだくさんある。
今回、雪山撮影で改めて痛感したのは、低温下でのオートフォーカス性能低下だ。-20℃近い環境になると、K-20Dは後ピン傾向が現れてしまう。K-5も低温下で若干フォーカスずれの傾向はあるのだが、さすがに低温動作保障(-10℃)を公式に示しているだけあって、まず許容範囲だ。
この2台を併用して困ることが二つある。ひとつは操作性の違い、もうひとつは電池の互換性だ。操作性の違いは、K-5の前モデルK-7から操作ボタン配置と画面UIが大きく変わったことによる。個人的にはファインダーを覗いたままほとんどの操作が誤りなくできるK-20Dのほうが使いやすいと思うのだが、まあ、液晶UIの比重が高まってしまうのはPentaxに限らず高機能化が進む最近の各社製品に共通することなので、仕方ないのだろう。電池は、どちらのボディーも専用のリチウムイオンパックが必要で、K-5はD-LI90、K-20DはD-LI50という型番になっていて、互換性がない。電気用品安全法の改正による安全性強化から、最近また電池型番が変わり、D-LI90Pになってしまった。

Pentax>デジタル一眼レフカメラリチウムイオン充電池および充電器の改正電気用品安全法への対応について
http://www.pentax.jp/japan/news/announce/20120113.html

充電環境がない山岳撮影においては、電池はなるべく共通化し装備品を減らしたい。カメラボディー別にそれぞれ予備電池を持たなければならないのは、辛いところだ。D-LI90とD-LI90Pでは、カメラボディー側から見た互換性はあるため、K-20Dは退役させK-5 IIを買い足すのが良いのだが、来年2月開催のイベントCP+に合わせPentax新機種発表のウワサもある今は、ちょっと様子見するほうが良いと考えている。新機種が出るとしたら、APS-Cではないライカ判フルサイズの撮像素子を搭載したモデルが大いに予想されるところであるが、浅い被写界深度を活かす機会が少ない山岳撮影の場面においては、レンズを小型化できる点でAPS-C撮像素子のメリットは大きい。まあ、フルサイズ対応レンズの大部分が廃番になったPentaxとしては当然、APS-C専用レンズでの運用性も十分に配慮したフルサイズ対応ボディーを出すと思われるので、山ではAPS-C、街ではフルサイズという両刀遣いできるモデルに期待したいところではあるのだが…。

交換レンズ

  1. Pentax DA10-17mmF3.5-4.5 Fish-Eye
  2. Pentax DA14mmF2.8
  3. Pentax DA21mmF3.2 limited
  4. Pentax DA35mmF2.8 macro limited
  5. Pentax DFA50mmF2.8 macro
  6. DA70mmF2.4 limited
  7. DFA100mmF2.8 macro
  8. DA☆200mmF2.8

無雪期は画質と携帯性優先で、レンズはパンケーキタイプの単焦点レンズを主体に使っていた。その場合の行き着いた構成は上記の内容だ。21mm〜70mmのレンズ4本でフィルター枠が49mmに統一されているのもいい。超広角レンズはDA15mmF4も持っているが、周辺画質の悪さが我慢できず、若干大きくともDA14mmF2.8にせざるを得なかった。DA15mmF4には歪曲収差が少ないメリットもあるが、それが活きるのは街中の人工建造物を撮るときで、自然相手の山岳写真においては少々の歪曲はあまり関係ないし、気になれば現像時に補正することもできる。また、F2.8の明るさは、星などの夜景撮影で感度1段分の改善になる。このほかに、超薄型パンケーキのDA40mmF2.8も持っているが、最短撮影距離が40cmとイマイチ長く、近くに寄れない不自由さがイヤになったことと、フルサイズ換算で61mm相当の画角は中途半端で使いにくく、若干大きくても画角が54mm相当で近くに寄れるDA35mmF2.8 macro limitedが主力になった。

  1. Pentax DA10-17mmF3.5-4.5 Fish-Eye
  2. Pentax DA14mmF2.8
  3. Sigma 20mmF1.8 DG RF
  4. Pentax FA31mmF1.8 limited
  5. Pentax FA43mmF1.9 limited
  6. Pentax DFA50mmF2.8 macro
  7. Pentax FA77mmF1.8 limited
  8. DFA100mmF2.8 macro
  9. DA☆200mmF2.8

紅葉時期の鏡平や涸沢など、装備重量が少しぐらい増えても困らないルートでここ一番の画質を求める場合は、上記の構成にしている。この組み合わせでは、20mm〜100mmの6本がフルサイズ対応のイメージサークルを持っているため、中心部分のトリミングとなるAPS-Cでは画面のすみずみまで十分な画質を発揮できる。Sigmaは逆光耐性が若干悪いのと(レンズとカメラボディーのセットでメーカー調整を実施したにもかかわらず)オートフォーカス精度が劣る。K-5のカスタムメニューAF微調整で-9まで補正しようやくまともに使える状態だ。できればPentax純正で同等仕様のレンズが出てくれたら良いのだが…。今後のフルサイズ対応でレンズ製品ラインナップの見直しがあることを期待したい。
以上のような単焦点レンズ主体の構成が無雪期に持って行く内容だったわけだが、強風で雪塵が舞う環境ではレンズ交換のリスクが非常に高く、極寒の中で手袋をしての交換作業も辛かったのが、これまでの雪山撮影経験から学んだことだ。また、雪山においては激しい気象変化とガスの動きが付きもので、ズームレンズの機動力はシャッターチャンスを逃さない意味で大切だ。

そこで、カメラボディーをK-5とK-20Dの2台として、K-5には標準ズームDA17-70mmF4、K-20Dには望遠ズームDA☆60-250mmF4をマウントし、レンズ交換を省く運用にしてみた。この2本のズームレンズは、開放絞りが一定のF4.0で、フィルター径も同じ67mm。画質については、標準ズームレンズのDA17-70mmF4が中級グレート、望遠レンズのDA60-250mmF4が高級グレードの☆シリーズとなっているが、幸いなことにDA17-70mmF4の状態がすこぶる良い。今年6月にオーバーホールを実施したところ、初期性能を大きく上回るほどに改善され、特に17mm〜35mm付近においては十分な画質性能が得られるようになった。このレンズは、購入直後に片ボケの初期不良で修理を経験しているが、その後5年間、手軽なズームレンズとして街中でよく使っている。オーバーホールはモーターや基板交換まで含む大規模な内容だったが、恐らく、製品自体の改良事項も含まれているのではないだろうか。結果として、ピント精度はもちろんのこと、周辺フォーカスや合焦速度も向上し、明らかに購入直後より数段上の性能になった。パンケーキタイプの単焦点レンズに比べると、暗さ(F値)とカメラにマウントした状態での長さで携帯性はデメリットだが、DA17-70mmF4には簡易防滴構造(公式には表示されていないが、マウント部分にOリングを装備)があるため、カメラボディーの防塵防滴構造と合わせて非常に安心感がある。このレンズの唯一に近い不満点は、ピントリングがスカスカに軽く、カメラボディーを揺らしただけでもピントがズレかねないことだ。夜景撮影のように正確なピントを得るのが大変なケースでは、これは非常に痛い。また、夜景撮影ではF2.8の明るさもあったら良いが、カメラボディーの高感度性能が著しく改善された今となっては、それほど気にならなくなってきた。

Pentaxレンズ開発ロードマップ(PDF)
http://www.pentax.jp/japan/products/lens/images/K_Mount_Lens.pdf

Pentaxの標準ズームレンズには、正規の防塵防滴構造を持つDA☆16-50mmF2.8という製品もあるが、若干大きく重くなるのと、大口径ズームレンズの宿命で山岳撮影では特に重要な逆光耐性が弱い傾向にあるようだ。公表されている開発ロードマップでは、恐らく来年、17-70mmF2.8-4くらいのスペックで☆グレードのレンズが発表される予定になっており、そちらに期待もしている。また、超広角ズームの☆グレードレンズも計画されているので発表が楽しみだ。
望遠ズームレンズのDA☆60-250mmF4については、画質性能は文句なし。問題は大きさと重さだが、DA☆200mmF2.8を持ち歩くのと引き替えであればあまり変わらない。インナーフォーカスの効果で近距離では望遠倍率が低下するようだが、最短1.1mまで寄れるのでまあ、足でカバーすればたいていは何とかなる。F2.8に比べれば暗いことは否めないが、このレンズは絞り解放からしっかり使えるので実はそれほど遜色ない。
2台のカメラは、それぞれ、レンズをマウントした状態ですっぽり入るLoweproのホルスター型バッグに入れている。衝撃や急激な温湿度変化から機材を守る意味でこの価値は大きい。カメラとバッグの間は3φの細引きスリングで結んで、手を離しても落とさないようにしている。バッグはショルダーベルトをたすき掛けでカラダの左右にぶら下げる形とし、厳しいルートではベルトループでウエストに固定もできる。なお、ロープロのバッグは布生地の撥水性が弱い上に自慢の防水カバーも雨に晒すと縫い目から水が浸みてきてしまう。撥水スプレーとシームテープで加工しないと山では使えない。

三脚


自分が所有しているカーボン三脚は、マンフロット055MF3(上記写真の上側)と190CXPRO4(上記写真の下側)だ。もっと小型のアルミ三脚もいくつか持っているが、アルミ三脚は凍結した雪が付着しやすいのが雪山撮影において致命的だ。055MF3は30φ級の3段で実測2.2kg、190CX4は25φ級の4段で実測1.5kgある。雲台は、055MF3にはギア雲台410(実測1.16kg)を、190CXPRO4には3ウェイ雲台804RC2改(実測0.63kg)を組み合わせている。三脚と雲台の合計で比べると、重量差は1.5倍ほどになる。また、運搬時の短さ(縮長)も山での行動能力に効いてくる。
今回、行動能力優先で190CXPRO4で行ってみたが、雪山撮影においては小型三脚のデメリットは無視できないことを痛感した。まず、無雪期よりもずっと風が強いため、パイプに十分な強度がないとブレが抑えられない。手袋で操作する都合から、脚の伸縮やエレベーター調整が190CXPRO4は(強度を補う都合からと思うが)フリクションの堅さでやり辛かった。190CXPRO4は伸長の低さも大きな制約だ。雪山撮影の場合、三脚にスノーシューを履かせても脚の沈み込みで安定を得る都合から、無雪期よりも高さが低くなってしまいやすい。また、人間にとっての足場の悪さもあるため、無理な姿勢をとらないで済むよう高さを稼ぐことはとても重要だと思う。しかし、もしも滑落したときにピッケルで確実に初動停止できるか?といった行動中の安全性を考えると、持ち物は出来る限り小型軽量化すべきで、非常に悩ましい課題だ。
なお、明るい昼間の撮影に三脚は要らないのではないか?とも予想できるところだが、強風が吹く環境、かつ、もたれかかれるような安定したものがない上に足もとも不安定な雪山では、ブレというよりもフレーミングを確実にする上で、三脚は必要だと思った。また、低温下でオートフォーカスを使うと、測距時間の問題からかブレの多少が合焦精度に大きく影響するようで、手持ちと三脚では結果が大きく違ってしまう。特に望遠レンズは、街中で撮るときのホールド感覚がまったく通用しない。強風、極寒、積雪の足場、手袋ごしの操作といった環境では、何倍もハンディーがあることを覚悟しなければならないのだ。

フィルターとサングラス

風景撮影では一般的に偏光フィルターの使用頻度が高いが、今回、山岳写真関係の方々と情報交換してみて、デジタルカメラでは銀塩フィルムカメラよりも偏光フィルターのデメリットが大きく、偏光フィルターを使う機会は減ったとのお話をいただいた。これは何となく自分も感じるところである。超広角レンズでなくても太陽との偏角差による明度ムラが現れやすく、ゴーストや(偏光フィルターを使ったのにもかかわらず)コントラスト低下まで起こる場合がある。そうした問題はあるが、だからと言って偏光フィルターは不要とまで言い切れないことも事実だろう。要は、ここぞというシーンにおいては、フィルターの有無で両方撮り比べることが必要だ。そこで問題になるのがフィルターの脱着操作だ。手袋を脱いだらたちまち凍傷になるような厳しい環境下で、非常に薄い偏光フィルターの固定枠を回すのは、至難の業だと思う。そこでふと思ったのが、固定枠につかみやすいような補助の突起を付けてやれば良いのではないか?ということだ。今使っているインナーフォーカスのズームレンズ用なら、フィルターの固定枠が少しぐらい太く増えても問題はないので、プラスチックの小片を接着剤で付ける程度の改造でも、格段に使いやすくなるはずだ。
偏光フィルターを使う場合、偏光サングラスをかけてファインダーを覗いたときに支障をきたすことも、課題と感じた。もっとも、背面の液晶画面やファインダー内の情報表示(これも液晶を使っているのだろう)は、偏光フィルターの有無に関係なくもともと偏光サングラス越しに見るときの問題になるもので、対策すべき対象はサングラス側になる。雪山においては、雪目焼けを防ぐためのサングラスは必須だ。その意味でサングラスに求める特性は、紫外線カットと明度減少であり、偏光特性は必ずしも必要なものではないはずだ。偏光レンズのほうが雪面での反射光を効率良く減衰させ、視覚的なコントラストも上がるので雪面の起伏がよく分かるというメリットがあるため、雪山用として売られている製品はほとんどが偏光性能を持っている。ついでに、写真撮影という用途からすると、アンバーやピンクなど吹雪の中で視認性を上げる着色工夫も、カラーバランス感覚を崩したくない点からは気になるところだ。オークリーなど高級サングラス製品のラインナップを見ると、偏光なしの紫外線遮断スモークグラスもあるので、できればそうした製品の購入を検討したいところではある。