三俣から雲ノ平へ


ここ三俣キャンプ地の何より良い点は、水場が近く、無料で使えることだ。逆に、悪い点は、キャンプ地にトイレがないことで、もよおしたら三俣山荘の中に入らなければならない。朝の混雑時間帯は、山荘内のトイレ前で長蛇の列を作ることになる。収容客数70人の小屋のトイレを、テント最大100張りのキャンプ地利用者が共用するって、かなり無理のある話だと思う。幸いなことに今回は山荘もキャンプ地も比較的空いているようだが、念のためピーク時間帯を避け、遅めの行動を決め込んだ。
そして、悪い点はもうひとつある。付近一帯、きっしりハイマツに覆われていることもあってか、朝の結露がすごい。陽が照り出してからテントをしっかり乾かしたいことも、遅めの出発とする理由だ。三俣から最終目的地である雲ノ平までは、ほど近いので、まあ大丈夫だろう。
朝食メニューは、アルファ米のわかめご飯、ソフトふりかけの鳥玉そぼろ、シジミ入り味噌汁。

天候は予報が外れ、よく晴れている。三俣山荘前に立つと、北鎌尾根からの槍ヶ岳がくっきりシルエットで見え、申し分ない。


もちろん、目の前の鷲羽岳や三俣蓮華岳もばっちりだ。

08時30分頃、三俣キャンプ地を出発。まずは、黒部源流域まで、ダラダラと標高差200メートルほどを降りる。

もうちょっとで谷底というあたりで、小さなテントサイトのような場所に出る。

ここに置かれているのが「黒部川水源地標」だ。側面には「建設省黒部工事事務所」の銘が刻まれている。

谷底直前で、ルートの分岐点に出会う。三俣山荘・雲ノ平・岩苔乗越の進路を示す黄色い道標がある。雲ノ平へは岩苔乗越経由でも行けるのだが、コースタイムはもちろん、雲ノ平への直行ルートが短い。この直行ルート、地図には「急坂」の赤い文字が書かれているのだが、まだ体力は消耗していないし、ここさえ越えればあとは楽なはずなので、比較的軽い気持ちで直行ルールを選ぶ。

分岐からちょっと降りたとこで現れるのが、本物の黒部川源流だ。うわぁ、橋がない。

ロープに沿い、岩を飛び越えての徒渉である。写真からは実感があまりつかめないが、岩の大きさといい、水の流れる早さといい、40kg背負ってここを越えるのは、けっこう怖い。気持ちを落ち着け、慎重に岩を飛び越え、無事、対岸に辿り着いた。目の前の岩には「黒部源流 雲ノ平入口」と書かれた黄色い札がかかっている。いよいよ来たぜ、雲ノ平!
しかし、ここからの登りのまあ、キツいこと…。岩を手でつかむには傾斜が足りず、かといって足だけで登るには傾斜が大きく、足下も土に埋まった岩ごろごろ状態で疲れまくり。おまけに、晴天の直射日光をまともに受け、ものすごく暑い。地図上のコースタイムは、登り80分・下り70分。とにかく頑張れ!と自分に言い聞かせつつ、何度も休憩を挟みつつ小刻みに登った。

休憩途中、高山蝶のベニヒカゲが飛んできて、ポーチにとまった。きっと、ポーチにしみ込んだ汗を吸っているのだろう。

やっとの思いで登り切ると、時刻は12時00分頃、コースタイムの倍くらい費やしたことになる。辺りはハイマツ帯。この付近は、雲ノ平の玄関口である日本庭園と呼ばれる場所だ。ハイマツの上に頭を出して見えるのは鷲羽岳

やがて木道の上を歩くようになり、祖父岳との分岐点に出た。正面に見えるのは、水晶岳
ここで、たまたま会った別の登山者と立ち話をした。三俣から雲ノ平へ向かっているというと、その方も三俣から雲ノ平へ来た後、今は三俣への帰路途中だという。往復ともに、あの直行ルートではなく、岩苔乗越経由のルートを選んだそうだ。距離はあるけど、そっちのほうがぜんぜん楽だという。あー、やっぱりそうなのか。

祖父岳の反対側に目をやると、広大な台地が広がっていて、キャンプ地もすぐ近くに見える。さあ、あともうちょっと!

ところが、ここからがまた遠い。ちょっと前の地図では、さきほどの分岐点からキャンプ地へ直接向かって降りる短いルートが書かれていたのだが、最近、植生保護のためルートが変えられ、台地の側面をぐるりとトラバースするコースになった。崖のようなところに刻みつけられた道なので、ちょっと怖い箇所もある。何回も休憩を取りつつ、ゆっくり歩き進む。途中、疲れが頂点に達し、山荘方面とキャンプ場方面の分岐点で1時間ほど仮眠をとった。

15時30分頃、雲ノ平キャンプ地へ到着。

テントを張って荷物を放り込み、一息つく。

キャンプ地には小さな建物があるが、これは管理小屋ではない。バイオ浄化設備を備えたハイテクトイレだ。トイレを済ませ、落ち着いたところで、キャンプの届けを出すため、雲ノ平山荘へ向かう。

ここ雲ノ平の唯一最大の問題は、キャンプ地と山荘に距離があることだ。地図上のコースタイムで、片道25分も要する。山荘近くで、どっかで見た人物に出会った。そう、ワサビ平キャンプ地にいた、あの笑ゥせぇるすまんのおっさんである。また会いましたねと会釈する。
山荘で届けを出す際、「三連泊する予定なんですが、毎日届けを出さないとダメですか?」と尋ねてみたところ、「三連泊ですね、今日まとめてで良いですよ」とのこと。手続きを済ませ、グレープフルーツ100%の紙パックジュースを買う。ちゅうちゅう吸いながら、25分の道を辿り戻った。

夕食メニューは、3分茹でスパゲティーに、レトルトのキノコ醤油ソースとコーン、そして粉末のほうれん草クリームスープ。