岩登り机上第二回・岩登りの基本(ロープワーク)

岩登りの概論

岩登りは、普通の登山に比べ道具が増え、多くの技術が要求される。まず、役割分担から説明が始まった。
下で安全を確保する立場の人がビレイヤー、先頭(トップ)を登っていく人がリーダーだ。これは、パーティー編成のリーダーとは意味が違う。例えば、実力が同程度の二人組の場合、ピッチを切るたび、リーダーとビレイヤーが交互に入れ替わって登る場合もある。リーダーはランニングビレー(中間支点)をとることで、後で述べる落下係数が小さくなるよう努力する。
中間支点には、ハーケン、ナッツ、カム、ボルトなどが使われる。ハーケンはクサビ形の金属片で、岩の隙間に打ち込んで固定する。中世時代からある非常に古い器具だという。打ち込んだら変形して再利用できない軟鉄製と、変形しにくく回収して何度も再利用できるクロモリ製のものがある。ナッツは、岩の隙間に挟んで摩擦力で固定する小さな器具だ。カムは最近主流の器具で、隙間で挟んだ後、広がる機構により強い固定力を発揮する。ボルトはネジにより中で広がる構造を持つが、引っ張り強度は500kgほどで、カムに比べて劣るという。
ロープは一般的に45〜50メートルほどの長さで、ビレイヤーは確保器(ATC、ルベルソキューブなど)を介してロープを繰り出す。ビレイヤーの技術は、岩登りの根幹であり、クライミングの成否に関わる存在だ。われわれ受講生がこれからの半年でまず学ばなければならないのは、このビレイの基本技術だが、半年で一人前のビレイヤーになれるほど易しいものではない。ケースバイケースの判断能力など、年数をかけての経験が必要だ。

墜落のメカニズムと落下係数

物理学の視点では、まず、落下係数という概念を理解しなければならない。
例として、ビレイヤーから10メートル頭上にリーダーが位置するシチュエーションを考えてみる。ビレイヤーとリーダーの間に中間支点がなかったとして、もしもリーダーが墜落したならば、どうなるだろうか? ビレイヤーからリーダーまで繰り出されたロープの長さは10メートル。墜落したリーダーは、ビレイヤーの位置からさらに10メートル下まで落ちたところで、ようやくロープの範囲限界に達し、落下が止まる。落下距離は合計20メートルだ。落下距離をロープの長さで割った値を落下係数といい、この場合の落下係数は「2」になる。
リーダーが1メートル下に中間支点をとっていて落下したならば、長さ10メートルのロープに対し、落下距離の合計は2メートル。この場合の落下係数は「0.2」になる。
この例から分かることは、中間支点の重要性だ。クライミング用ロープは、7%ほどの伸び率が設けられており、墜落時の衝撃をこの伸び率で吸収する仕組みになっている。落下係数が小さいほどロープの伸びが有効に働いて中間支点の外れを防ぎ、墜落したリーダーを死傷から守る。

岩登りの心構え

岩登りを上達させる要素は「高いモチベーション」の維持だ。勉強をするほど面白さが増して、モチベーションが高まっていく。そして、信頼関係とコミュニケーションの姿勢が、事故を防ぎ、面白さを増やすことにつながる。パーティー内では、確保と解除の意志疎通を失敗すると事故を招く。他のパーティーとも、顔を合わせた機会に挨拶をした記憶から、万が一の遭難時に捜索範囲を絞り込む情報の一助になった例もある。
安全を高めるためには、行動のスピードが必要だ。一般的に、300メートル程度のルートを登るには3〜4時間ほど要するが、十分な技術がないと倍以上の行動時間がかかり、天候の悪化や夕刻を過ぎてしまう。暗くなってからも行動を続けると、道具を落としたり、良い支点を見逃すリスクが高まる。
行動中は、常に先を読む姿勢が必要だ。次に何をすれば良いか、その場になって考えるのでは遅い。頭の中で準備することが自然にできるかどうかは、日頃の訓練がモノを言う。「反復」と「なぜ」が大切だ。

ロープの結び方

ロープ結びの教材として、9mm径・2m長のロープが、ひとりに1本ずつ配布された。摩耗等で退役した岳連共同装備品のロープを切断し、作られたそうだ。このロープを使い、テキストと講師の手さばきを見ながら、結び方を練習する。5名の講師が分担してわれわれ受講生の間をまわられ、丁寧にアドバイスをされた。
ライミングを学ぶ上で、最初に必要になるロープ結びは、ハーネスとロープのつなぎに用いる「フィギアエイト・フォロースルー」だ。

8の字結び(エイトノット)を作り、その8の字を逆に辿る形で二重にする。

フィギアエイト・フォロースルーの結びが出来あがったところで、形を整える。ロープの1本だけを引くと形が崩れてしまうので、2本を均等に引き絞る。整ったところで、末端をダブルフィッシャーマンズ・ノットの片側結びで緩みを止めれば完成だ。緩み止めはオーバーハンドノットで済ませるやり方もあるが、この岩登り教室においては安全優先でダブルフィッシャーマンを用いる。なお、ハーネスへ留めるループは、小さく作ること。
続いて学んだのは、メインロープからのセルフビレイで用いる機会の多い「クローブヒッチ(インクノット)」だ。

この写真で、上の結びがカウヒッチ、下の結びがクローブヒッチ。よく似ている。

クローブヒッチは、二重の輪を作ってから輪の上下を入れ替えてカラビナに通せば、出来あがり。

カウヒッチは、ハート形につまんでできたふたつの輪をカラビナに通せば、出来あがり。
ロープ結びは、形をきれいに整えることが大切だ。形が崩れてしまうと、本来の強度が得られない。例えば、エイトノットでは、想定以下の荷重でも8の字が反転してしまい、簡単に緩んで事故につながる場合がある。
もうひとつの注意として、結びの末端は、直径の10倍以上(7mm径のロープならば7cm以上)の余裕を持たせることが挙げられた。

次回の計画説明

次回は、初めての実技講習。6月25日(土)・26日(日)の2日間で、三ツ峠へ行き、岩登りの基礎を体験練習する。現地(河口湖駅)での集合だ。
難易度は4〜5級、デシマルグレードで5.7〜5.9ほどのルートを、あらかじめトップロープセットした状態で登ってみる。
ロープ結びは、各自が用意したフリクションノット用ロープを使い、自宅などであらかじめダブルフィッシャーマンズノットを予習しておくこと。