岩登り実技第一回・三ツ峠2日目

起床から朝食

2日目は、7時の朝食に間に合うよう起きる指示になっていたが、前日は21時過ぎで早々寝たことから、5時には目覚めてしまった。身支度を整え、ゆっくりと待つ。窓から外の様子を見ると、深夜に雨が降ったらしく、地面や木々が濡れている。しかし、天気予報は回復傾向にあるし、風が吹いているので濡れた外岩が乾くことに期待を込めた。

朝食のおかずは、塩鮭、納豆、玉子、海苔、お新香。オレンジと乳酸菌ドリンクも付いている。

懸垂下降訓練

8時30分、装備を持って四季楽園から岩場に移動、2日目の実技講習を開始。

霧に包まれているのは相変わらずだが、幸いにも岩壁はもう乾いていて、クライミングには支障なし。前日とは違って、この日はグループ分けせず、全員が左フェイスの階段状岩場で訓練することになった。

現地に到着し、5名の講師によって最初に行われたのは、フィックスドロープの設定だ。

上の写真で、左側が登りルート、右側が下降ルートだ。これを使って、なんと、懸垂下降を訓練するという。自分たち初心者がいきなり懸垂下降するなんて、大丈夫なんだろうか? 不安を解消させるかのように、講師から丁寧な説明があった。
懸垂下降というのは、全体重をシステムに預けることから、ひとつでも不備があれば重大事故に直結する。絶対に大丈夫という確認が済むまでは、セルフビレーを解いてはならない。システムに不備がなければ、今まで学んだ範囲できちんと安全に降りられるものだという。なお、この講習では確保器(ATCまたはルペルソキューブ)を下降器として使うが、もし用意できるのであれば、エイト環のほうがロープの流れがスムーズで降りやすいようだ。
今回、トップの場所までは、フィックスドロープを使ってセルフビレイしながら登ることなった。雪山教室ではウサギの耳を使ったが、ここでは短いテープスリング2本を使う。ハーネスループに2本のテープスリングをカウヒッチで結び、それぞれのテープスリングには安全環付カラビナを付ける。フィックスドロープにそれぞれのカラビナを掛けた状態で登り、フックスドロープの支点に来たところで、片方のカラビナを支点の向こうに掛け替える。掛け替えができたら、残ったもうひとつのカラビナも支点の向こうに掛け替える。こうして、常にカラビナのひとつはロープに掛かった状態を維持させる。トップの場所に着いたら、講師の指示にしたがい、懸垂下降へのチャレンジだ。

自分の順番が来て、トップまで登ってみると、支点は上の写真のように処理されていた。

講師からは、まず、落ち着いて深呼吸でもしながら、周りの景色を見てみなさいとの指示をいただいた。霧が切れて、富士山が見事な姿を現している。こうした緊張のシチュエーションでは、つい、自分の手元ばかりに注意が集中してしまい、落石などがあっても気付かない恐れがあるという。常に周りに広く注意のアンテナを張っておくことが大切だ。
続いて、革手袋を装着し、懸垂下降のシステムをセットアップ。トップの支点に通されたロープを、往復2本とも引き寄せて確保器に通すのだが、そのままではロープの自重で張力がかかり、とてもやりにくい。そこで、ロープをたぐり寄せて弛みを作った後、足で軽く踏み押さえて下に流れないよう留めてから、確保器に通すのがコツだ。ロープを踏み押さえるときは、傷をロープに付けないよう注意すること。また、ロープの流れが途中で交差しないよう、きれいに整えておく。
ハーネスのギアラックにぶら下がったスリング類も、不用意にぶらぶらしないよう、短く束ねておく。また、下に垂れたロープの末端は、念のため、ビレイヤーに持ってもらう。万が一の場合、ビレイヤーがロープを引けば、ちゃんと制動がかかる仕組みだ。
ひととおり点検した後、セルフビレイを解かないままで、そのまま全体重をシステムに預けてみる。びくびく恐れる自分の様子からか、講師からは、自動車でも吊り下げられる強度を持った装備なので安心しなさいとのアドバイスをいただいた。度胸一発、気持ちを落ち着かせ、ぐっ!とロープに身をまかせた。OK、大丈夫。
準備万端整ったところで、いよいよ、セルフビレイのカラビナをフィクスドロープから外す。外したカラビナは、きちんとギアラックに掛けておく。

合図をしてから、全体重をシステムに預け、ゆっくり下降をスタート。ついつい、ロープを握る手元にばかり目が行ってしまうが、下降先や周りをしっかり見てバランスを崩さないよう注意の指示を、講師よりいただいた。ダブルロープに対して確保器でしっかり制動がかかっているので、意識してロープを送らないと、なかなか進まない。やってみると、確かに、前日にやったロアーダウンとあまり変わらず、確保器の操作も昨日のビレイヤーの経験があればそれほど難しいものではなかった。自分自身の手で降りている実感からか、昨日のロアーダウンと比べても楽しさ倍増た。

難度を上げたクライミング訓練

懸垂下降を経験した後は、トップロープで昨日よりちょっと難しいルートを登ることになった。手足のかかるホールドが浅い上に、一番難しそうなルートではオーバーハング気味に突き出た箇所があったりで、ほんの少しの人しかクリアできなかった。
自分は、ちょっと優しそうなルートを選んで挑んでみたのだが、昨日と違って、シューズがまったくグリップしない。ズルズル滑りながらトライしているうち、腕の筋肉がチカラ尽きて、ギブアップしてしまった。靴底を見たら、濡れた泥が付いていた。これじゃあダメだ。登る前によく確認しなければいけなかったのだ。また、講師からいただいたアドバイスでは、岩壁面はシューズのサイドではなく、つま先で捉えたほうが良く、つま先を当てるときには踵を下げ、接地面の面積を稼ぐことが大切だとのこと。泥をよく落としてから、ルート横の岩壁でグリップの違いを試してみると、確かに、踵を下げてつま先を当てると、非常に効果的なのが分かった。
なお、岩壁を登るときの注意として、ボルトリングに指を直接かけてはならないことが挙げられた。ボルトリングには指が何本も入らない上に、荷重がかかったときに抜けなくなって、指を損傷してしまう事故の恐れがあるからだ。どうしてもボルトリングを持たなければならないときは、リングに大きなカラビナをかけてから、カラビナを持つようにすること。ただし、ボルトの強度がそれほどない場合もあるので、ひとつのボルトだけに全体重をかけるような使い方は、するべきではないとのことである。複数の支点でバックアップさせることが必要だ。
お昼を過ぎたあたりで、今回の講習を終了。クライミングシューズは今回初めて長時間履いてみたが、キツさなど問題はなかった。革手袋は、牛革のものと豚革のものを持って行ってみたが、丈夫な牛革のほうで良かったようだ。順番待ちの間など風があるときには、肌寒さを感じることもあった。机上講習の際、配布された必要装備品リストに、あればより良いものとしてウインドブレーカーが挙げられていたのだが、岩場環境に独特なものとして必要性がよく分かった。


四季楽園に戻り、各自、休憩しながら昼の行動食を摂った。四季楽園のテラスからは、左フェイスの全容を見ることができる。壁面の上のほうでは、オーバーハングした大岩にアブミを使ってチャレンジするパーティーの様子が見られた。


時刻の都合から、帰路にバスを使えないため、タクシーに乗り合いで帰ることになった。講師から電話でタクシー会社に予約を入れていただき、四季楽園を出発。1時間弱で、登山口近くの駐車場に着いた。岳連の共同装備品を講師の車に積んだ後、各自、連れ立ってタクシーに乗り込んだ。30分足らずで、河口湖駅に到着。無事に解散となった。