酷暑のクリヤ谷

8月17日(土)・18日(日)の1泊2日で笠ヶ岳の南北稜線を歩いてきた。

1日目 中尾高原口→クリヤ谷→雷鳥岩→笠ヶ岳キャンプ地


毎日アルペン号に今年から導入された三列シート車に乗ってみた。東京竹橋の毎日本社ビルを前夜22時に出発。期待通りデラックスな車両で、座席同士の間隔も広く、隣の人の存在はあまり気にならないし、リクライニングシートを傾けて足もゆったり伸ばせる。でも、トイレがないので、サービスエリアに停車してトイレ休憩に入る度、アナウンスで起こされてしまうし、30分以上の長い停車時間が設定されている。停車中は照明が灯ってまぶしいため、目隠しが欲しいと感じた。長距離夜行用の車両なら、トイレは必ずあるはずだし座席シートも寝やすく水平近くまで倒せるので、この三列シート車は恐らく近距離用の車両だろう。今月からの高速バス規制強化で廃業する高速バスツアー業者が出ていると聞くが、もしかするとそうした影響で出た余剰車両がまわってきているのだろうか。

早朝5時過ぎ、中尾高原口に到着。ここまで乗り換えなしで直行できるのはありがたいが、使えると思っていた砂防資料館のトイレが早朝はカギがかけられ使えず、ガッカリした。トイレ前の散水ホースで水は補給できた。

朝食を済ませ、午前6時、槍見館横のクリヤ谷登山口より入山。茶色の登山届ポストが登山口の目印になっており、この地点の標高は約990m。最初の取り付きは急斜面だが、少し歩くとだらだらと緩く登るトラバース道になる。

1時間ほど歩いたところで見える穴滝。ここまで直射日光の当たらない道が続くが、風があまり抜けず、盛夏時期に標高990m→1350mの登りは大変に暑い。滝の周りには清涼な空気が漂っていて、ほっとする。

穴滝のすぐ先で第一渡渉点と出合う。昨年9月に来たときよりも水量は少なく、飛び石で支障なく渡れた。

標高1500m付近の錫杖沢出合いから見える錫杖岳。垂直の岩壁が朝の光でよく映えている。

標高1580m付近で出合う青い淵。神秘的な雰囲気が漂っている。
この先、稜線に上がるまでの道は昨年9月、背の高い笹藪を抜ける必要があって大変だったが、今回はよく刈り取られて整備されており、楽に歩くことができた。

標高2150m付近でクリヤの頭の尾根越しに槍ヶ岳が見える。お昼の日差しで猛烈に暑い。堪らず、この付近で昼食休憩をとった。ここへ来るまでに、標高1810m付近と2060m付近の水場で冷たい飲み水を摂り少しクールダウンできたが、水筒の水もぐんぐん減っていった。

酷暑にメゲつつ、14時30分頃、ようやく雷鳥岩に到着。夏の午後に独特な飽和水蒸気が立ち昇り、少しずつ展望が白み始めてきた。

雷鳥岩の横の標高2460m地点から、標高2898mの笠ヶ岳山頂まで、標高差438mを3時間のコースタイムで歩くのだが、ずっと逃げ場のない稜線ルートが続く。心配なのは、夏の午後特有の雷雲だ。すっぽりガスに包まれる可能性は高いものの、積乱雲が発達する感じはあまりないだろうと判断。笠ヶ岳に向かうことにした。
歩き始めて30分ほど経つと、予想通り稜線はガスに覆われて展望が利かなくなった。すこぶる明瞭な稜線ルートで道迷いの恐れはないし湿度の著しい上昇も感じられないので、さほど心配はないが、暑さと道の悪さが辛かった。浮き石だらけの細いザレ場や大きな段差の大岩をいくつも踏み越えて歩く。雷鳥岩横から歩き始めて1時間経ったところで、飲み水が尽きてしまった。最初に詰めた2リットルに途中の水場で補充した分を加えると、およそ3.5リットルの水を9時間半ほどで飲み干したことになる。飲みかけのポカリスエットが500mlペットボトルに1/3ほど残っているので、それが最後の命綱だ。

17時30分頃、笠ヶ岳山頂に到着したが、展望は利かないままだ。すぐキャンプ地に降りてしまうと、日没を山頂で迎える気力はなくなると思い、ガスが切れることに僅かの望みをかけ日没予定時刻まで山頂で待つことした。残しておいたポカリスエットを飲み干し、1時間ほど待機したが、残念ながら太陽は姿を見せないまま黄昏を迎えた。
笠ヶ岳山荘でキャンプ届けを済ませ、ロング缶ビールを購入。夕暮れが迫る中、急いでキャンプ地へ降りた。多くのテントで盛況の様子だったが、幸い、空き地にはまだ余裕かあった。テント設営後に飲んだ缶ビールが最高に旨かった。一心地付いた後、水場に降りて飲み水を補給したところで、ようやく、この日の安堵を感じた。

2日目 笠ヶ岳キャンプ地→抜戸岳→秩父平→大ノマ岳→弓折岳→鏡平→わさび平→新穂高温泉


午前3時半に起床。残念ながら、展望が利かないまま朝を迎えた。湿気でテントの内壁は少し結露したものの、雨の降る気配はないのが幸い。

水場の様子。大きな雪渓の融け水を木槽で受ける仕組みになっていて、笠ヶ岳山荘で利用していると思われるポンプアップ設備も付けられていた。いつもの年は天水を笠ヶ岳山荘では利用しているのだが、今年は降水量が少なく、キャンプ地用の水場を共同利用しているようだ。

テントの撤収を終えて午前6時ちょうどに、この日の縦走行動開始。

緑の笠と播隆池付近の様子。池も水量が不足しているようだ。

最初のチェックポイント、抜戸岩の通過。前日歩いた南方稜線と比べ、この北方稜線はとても同じ山とは信じられないくらい、歩きやすさに違いがある。多くの人が歩いて踏み固められた登山道の何と快適なことだろう。

抜戸岩の先の東斜面では、雪解け時期が遅かったためだろう、まだまだ見頃のコバイケイソウが見事に広がっていた。

抜戸岳が近付くにつれ、ガスは少しずつ薄れてきたが、青空はなかなか現れない。

秩父平付近にはまだ雪渓が残り、コバイケイソウキヌガサソウなど、さまざまな夏の高山植物が豊かに開花していた。

大ノマ岳近くの稜線では、野生ラズベリーベニバナイチゴや野生ブルーベリーのクロマメノキが美味しそうな実を付けていた。

大ノマ岳の北側稜線にもまだ残雪があり、コバイケイソウが花開いていた。今年は本当に花の見頃が長い。

弓折乗越では、夏の終わりを感じさせる大きなシシウドの花が咲いていた。

午前11時30分頃、鏡平山荘に到着。今年からの新メニュー、冷やしうどんをいただいた。濃いめの冷たい出汁に氷が入っていて、暑い日にとても嬉しいメニューだ。食べ終えて一休みしていたら、風に吹かれようやく雲が晴れてきた。鏡池は残念ながら水面にさざ波が立ち、鏡像はぼんやり。
小池新道を降りて着いた、わさび平小屋では、恒例のキュウリ・トマト・リンゴをいただく。
16時ちょうどで、新穂高温泉へ無事に下山完了。平湯温泉から新宿行きの18時発・京王高速バスに乗って帰宅。酷暑で体力限界近かったが、充実感に溢れる山行だった。