新穂高・左俣林道を偵察

4月27〜28日、1泊2日で新穂高・左俣林道を偵察してきた。当初計画は2泊3日で弓折岳の稜線までを目標にしたが、重い大量のボタ雪で雪崩れがあちこちに発生し、非常に危険な状態と判断。ワサビ平に一泊しただけで帰ってきた。

1日目


前夜、毎日アルペン号で新宿から出発。相変わらずの狭い座席と度重なるトイレ停車で安眠できない。夜行で新穂高に直行できる手段がこれしかないのでやむを得ないが、カラダが大きい者には特に厳しい移動手段だ。中ノ湯付近でもそれなりの積雪だったが、安房トンネルを抜けて平湯に出ると、辺り一面が銀世界、けっこうな勢いでボタ雪が降っている最中。まさに、トンネルを抜けたら雪国状態だった。

朝6時半頃、新穂高温泉バスターミナルに到着。夏場は5時頃に着いた記憶があるが、この時期は道路状況等で時間を要するようだ。バスターミナル付近にあった建物はまだ改築工事が続いていて利用できず、仮設トイレが設置されている。昨年同様、左俣林道へ行くにはロープウェイ駅前から西側に橋を渡るよう案内板が出ていた。ロープウェイ駅は開場時刻(7時半頃)までトイレが使えないので、このバスターミナルでトイレを済ませておく必要がある。ボタ雪とともに風もあって、かなり寒い。落ち着いて身支度できるような場所がないので、すぐにロープウェイ駅へ移動。

ローブウェイ駅までは10分足らずの登りだが、ちょっとかったるい。途中の登山指導センター前で登山届を書いて投函。ロープウェイ駅前の屋根がある場所で、身支度を整える。4月終わりとはとても思えない吹雪と寒さ。恐らく上に登ればホワイトアウト状態だろう。

左俣林道ゲートに向かって歩き出したところで、テレビカメラを担いだNHKの記者の方が近寄ってきて、取材の依頼を受けた。この天候ですが自信はありますか?などと変な質問をされた。こちらは冒険者や競技選手ではないのだ。今日は自分が登るには無理な天候なのでワサビ平付近でテントを張って様子を見ますと答えると、ちょっとがっかりしたような雰囲気。たぶん、遭難事故の報道に使えるヤル気満々な登山者像の素材を狙っていたのだろう。

ゲート付近は大した積雪ではなかったが、林道を進むにつれ、ものすごい深雪になってきた。トレースはスキーのものがあるだけなので、ツボ足ではプチラッセル状態。30分ほど歩いたところでツボ足では限界と判断し、ワカンを装着した。斜面から滑り落ちた雪が何メートルも堆積しているらしく、うっかり横滑りしたら川に落ちてしまいような、けっこう怖いトラバース箇所もある。

無雪期コースタイムの倍にあたる2時間半ほど要して、ようやくワサビ平に到着。積雪の勢いは衰えずホワイトアウトの危険も高いので、ここで停滞することにした。小屋横の幕営地は積雪で小山のようになっているため、仕方なく小屋前にテントを設営。昼食のため、小屋前の木のテーブルに積もった雪を払ったのだが、その後たった1時間で10cmほども積もったのにはびっくり。
午後2時を過ぎたあたりで、ようやく降雪が収まってきた。この先の林道の状態を見たくなり、午後3時頃、偵察に出発したすぐのところで、引き返してくるスキーのパーティーと出会った。この先、30分ほど歩いたところで大きな雪崩れがあったらしい。まさに動いているデブリを見て、とても先には進めないと判断したとのこと。

30分ほど歩くと確かに、デブリでトレースが消された場所に出た。下抜戸沢から雪崩れたようだ。自分が着いたときは止まっていたが、すれちがったスキーのパーティーが見たときは、これが川のように流れていたのだろう。デブリの先端は左俣川近くまで達している。感心して見ていたら、また別パーティーデブリの山の向こうから引き返してきた。標高1900メートルのイタドリガ原付近まで登ったが、翌日は雪崩れで帰れなくなると判断し、退却されたとのこと。このデブリの川は、朝にはまったくなかったそうだ。今日の重い大量のボタ雪で表層雪崩が起こったのだろう。
いつまた次の雪崩が来るか分からない。引き返し始めたら青空が見えてきた。ほっとして歩いていると、突然、堅い雪の粒がいくつも飛んできて頭に軽い痛み。樹からの落雪とは違う、雪合戦で雪玉をぶつけられたような感じだ。一呼吸置いて、モワッと雪煙があたりを包んだ。ようやく、上のほうで雪崩れがあったのだと悟った。ワサビ平に着いたところで緊張が解け、どっと疲れが現れた。軽く横になって一休みした後、夕食を作って食べ、就寝。スリーシーズンシュラフ(モンベル#3)で寝たのだが、平地の春にカラダが順応してしまったためか、-5℃くらいなのに非常に寒かった。

2日目


前日の荒天は一掃し、見事な晴天。この写真のようにワサビ平小屋前の沢の水場も朝日を浴びて輝いている。雪から水作りする必要がないので、非常に助かった。ときどき、ドサッ、ドサッと、木にから落ちる雪の音がする。また林道の先を偵察に行ってみようかとも思ったが、晴れて日差しが差す今日こそ、昨日以上に雪崩のリスクは高い。興味より恐怖心のほうが先に立ち、まだ2日間あるが今回はここで素直に撤収することにした。途中の林道も雪が緩めば安全とは言えず、遅くとも西側斜面に日がまだ当たらない昼までには新穂高温泉まで降りるべきだろう。

帰路は、前日の往路のときよりもトレースがしっかりしたので楽だった。でも、うっかり滑って川に落ちると大変なので、慎重に歩く。

無事に新穂高温泉まで着いたときは、本当にほっとした。平湯温泉で汗を流した後、高速バスで帰宅。連休の中日だったが軽い渋滞で新宿到着は1時間ほど遅れた。