鏡平から無事に下山

久しぶりに布団で寝て、ふと、ヘンな癖に気付いた。布団の端にカラダを揃えるような体制をとっているのである。これは、テント生活で付いた癖だ。テントの場合、カラダと同じくらいの幅のマットの上に寝るのだが、寝返りを打って転がると、マットから落ちてしまう。マットから落ちると、堅いし冷たいしで、寝ていても無意識に体制を直してマットに上がることになる。これを繰り返していると、常に無意識に、手でマットの端を探り、マットから落ちないようにする癖が付くのである。布団の場合、幅に余裕があるので、少々寝返りを打ったところで外れることはないのだが、前日までの癖で、ついつい布団の中心にはカラダを置かず端を探ってしまうというわけだ。
ともかく、ここ鏡平山荘は、実に居心地が良い場所である。標高もちょっと下がって空気が濃く感じ、ぐっすり眠ることができた。今回、使う必要はなかったが、乾燥室が新しくなったそうで、使った人の話によると、すごく強力になり、濡れた服も2時間くらいでよく乾くという。
朝食は04時15分から食べられるが、混雑していたため断念。第二陣の04時45分で食べた。こういうときはお弁当にしてもらうよう前の晩に頼んでおくと、順番待ちする必要がなくて良いのだが、食堂で食べるとご飯と味噌汁が食べ放題のメリットもある。鏡平山荘の飛騨のご飯と味噌汁は特に美味しいので、テント生活での粗食明けには、強い誘惑になるのだ。

06時00分頃、山荘支配人の大澤さんに、秋にまた来ますと挨拶し、鏡平山荘を出発。木道を下る足取りはとても軽い。往路とは雲泥の差だ。
シシウドが原からの下り道は、例年あった早着きルートが危険で閉鎖され、今年は楽々ジクザグルートのみになった。

朝もやの中、陽を浴びて浮かぶような焼岳。中尾高原から登ってみたいなあと思いつつ、つい優先順位を落としてしまって、なかなか登る機会がない。

秩父沢では、見ず知らずの人がかっこ良く写真に収まった。ここは絵になる場所だと思う。

小池新道の終わり間近。このすぐ先から林道になる。

ワサビ平のブナ林。強い日差しが遮られ、清涼で安らぐ空間だ。

10時25分頃、新穂高温泉の登山口に到着。コースタイムが3時間45分なので、途中休憩時間10分×4回を加えると、どんぴしゃのタイムだ。9日間、ケガや病気もなく無事に下山完了したことに、ほっとする。下山届けを記入して投函し、10時55分発の高山行き濃飛バスに乗った。
12時30分頃、高山に到着。駅のトイレで服を着替えた後、巨大ザックはコインロッカーに放り込んだ。

カメラを持って、高山市街をぶらぶら歩く。国分寺の大銀杏は、今年も青々とした葉を蓄えている。この木が生きてきた1200年の歴史からすれば、自分が生まれてから今に至る人生なんて、ほんの一瞬なんだろうなあ。

鍛冶橋から本町通りを抜け、陣屋前から赤い中橋へ。街の建物は変わっても、城山の木々は昔と変わらない。


昼食は豪勢に、うな信で特上鰻丼を食べた。子供の頃は、特上じゃない並の鰻丼でも、年に1回食べられるかどうかというくらい贅沢なものだったんだよなあ。関東の鰻もいいけど、やっぱりこの味だ。たまに夢にまで出てくるくらい、懐かしい味。

街中を歩いていて見つけた「山岳映画の夕べ」というポスター。いいなあ、観たいなあ。でも、残念ながら9月4日じゃ無理だ。
それにしても、高山市街の西日は強い。午後3時頃にもなれば、東京なら、斜めから来る太陽光はもっと弱いし、高い建物の陰にもなる。ところが、ここ高山市街においては、空気が澄んでいる分、強い西日は容赦ない暑さだ。真昼の太陽と違って、帽子の庇も効果が薄いし、高い建物も少ないので逃げ場が限られる。このときばかりは、東京より暑い印象だ。

夕方、グリーンホテル脇の飛騨物産館でお土産を買う。職場には、ゆずきんつばのお菓子を選んだ。ちょっと前までは、この飛騨物産館へ来れば良いものが一通り揃って助かったのだが、今年は何となく品揃えが乏しく外し気味になった印象だ。次回はほかの土産物屋を回ってみるべきかも知れない。
早速、食べるラー油系の飛騨土産があったのには、畏れ入った。飛騨牛まんも、今年は街中に展開している。高山の業者の土産物開発にかける情熱はすごいものだ。日光など他の観光名所じゃ、これだけ次から次へと新商品投入はないと思う。
高山駅脇のデイリーヤマザキでコーラを買い、休憩コーナーで座って飲んでいると、9月15日で閉店するというお知らせ掲示が目に入った。確かに、こんな一等地をもったいない使い方だなあと思ってはいたのだが…。時間待ちに便利な場所だったので、なくなるのは残念だ。跡地もどうせ、土産物販売の店ができるとは思うが、ゆったりした休憩スペースは引き続き確保して欲しいなあ。
そして、デイリーヤマザキの店内で今さらながらに気付いたのが、レンタサイクルの利用だ。ここで自転車を借りて市街を回っていれば、短い時間をもっと有効に使えただろう。この店が閉まっても、どこかでやってるはず。駅前の案内所で聞いて、次回は利用しよう。
高山駅のキオスクで、夕食用の駅弁とお茶を買う。美味しい駅弁として日本全国にその名を轟かす、あの飛騨牛しぐれ弁当だ。

18時45分、JR特急ひだに乗り、高山からの帰路につく。日曜夜だというのに、列車内はすごく空いていた。交通の主流が鉄道からクルマに変わった上に、今年は安房峠道路の通行料を無料化する社会実験により、一層、鉄道利用客が減っているのかも知れない。
名古屋からは新幹線で東京へ。こちらはまずまずな席の埋まり具合だったが、幸いにも隣席は空いていて、巨大ザックを置くことができた。
23時30分頃、無事に帰宅。南向きの部屋はこの時刻になっても38℃の暑い空気が溜まっている。窓を開けて空気を入れ換えた後、冷房全開。風呂を沸かしながら、汚れた衣類を洗濯。手早く入浴を済ませ、午前2時頃、就寝。