天空漫歩


このDVDは、新穂高ビジターセンター(http://www.okuhi.jp/Rop/map/sangakukan.html)で3年前に買ったものだ。どこぞで通販してるのではないかとWebで検索してみたが、どうやら現地でしか手に入らないらしい。企画は新穂高ロープウェイの運営体でおなじみ奥飛観光開発、制作はジンプロダクションとの表記があるが、ハチプロダクション(http://www.3190.jp/)のプロフィールページにもこの作品の記載がある。実際の撮影を担ったのはハチプロダクションのほうだろうか。内容は、「天空漫歩I」「穂高の四季」「天空漫歩II」「森の四季物語」という四部作で構成され、合わせて61分ほどの長さになる。ナレーションは一切なく、簡単な字幕説明と打ち込みシンセBGM、たまに実況音が流れるものとなっている。画面は4:3のテレビサイズ収録で、恐らくNTSCコンポジット素材と思われ、画質はそれなり。

天空漫歩I
新穂高ロープウェイに始まり、西穂高岳、ジャンダルム、奥穂高岳、涸沢、前穂高岳北穂高岳、大キレット、南岳、そして槍ヶ岳に至る夏の縦走路を、ヘリからの空撮で辿る。登山案内映像のつもりで眺めていると、ここぞというところでカメラが切り替わって違うシーンに飛んだりするもどかしさは感じるが、山岳写真愛好者な視点で眺めると、なかなか興味深い。
穂高の四季
4月の飛騨高山・山王祭りのシーンをイントロとし、初めに待ち構えるのはゴールデンウィーク穂高。続いて新緑の上高地、真夏のザイテングラードを登る人々とお花畑、夕立、初秋の雲劇場、紅葉の涸沢、初雪、秋本番を迎えた鍋平、そして厳冬期の穂高稜線と、四季のさまざまを巡っていく。15分足らずの内容ではあるが、恐らく、撮影には相当な機会と時間を費やしたのではないか。ちょっとばかり穂高を訪ねた程度では滅多に見られないシーンが続出。特に、秋の涸沢の三段紅葉は必見。
天空漫歩II
新穂高ロープウェイ西穂高口の展望台から眺める西側稜線を基本モチーフとして、笠ヶ岳、抜戸岳、秩父平、鏡平、双六岳、三俣蓮華岳、黒部源流域、樅沢岳、そして西鎌尾根から槍ヶ岳へ至る夏の縦走路を、ヘリからの空撮で辿る。槍穂高ルートと違って、笠ヶ岳双六岳ルートの空撮というのは、なかなか見られるものではない。稜線を境に西側/左側斜面の違いなど、この山域独特の景観は非常に興味深い。
森の四季物語
新穂高ビジターセンター主催のイベントを通じて、新穂高温泉周辺で体験できる四季の自然を魅せていく。春は鍋平高原ウォーキング。雪解け後に咲き始める花々や野鳥などを紹介する。夏は北アルプス入門登山コースとなる西穂独標トレッキング。高山植物や、西穂稜線の独特な景観などを見ることができ、大正池を始めとした夏の上高地についても触れられている。秋はキノコの会。大きなマイタケなど山の幸や紅葉を楽しむ。焼岳から見下ろす新穂高温泉上高地の眺めを対比させ、「それぞれの自然の美しさは個性的で優劣はつけがたい」との字幕には、確固たる奥飛の信念を見るかのようだ。冬はスノーシューツアー。雪の森を歩き回り、冬ならではの動植物の姿を追っていく。静かな冬の上高地も魅力的。この作品、奥飛の宣伝と言っては身も蓋もないが、こんなにも魅力的なイベントが熱心に催されていることは、もっと多くの人に知られて良いのではないか。

恐らくこのDVDの企画者側が描く視聴者ターゲットは、ロープウェイ観光で訪れる人々なのだろう。だが、登山をしない人にとってはストイックでディープ過ぎ、退屈するではないかと余計な心配してしまう。
飛騨贔屓な登山者の眼からは四作とも心置きなく楽しめるが、特に興味深いのは「天空漫歩II」だ。表銀座やパノラマ銀座と呼ばれる燕岳〜大天井岳槍ヶ岳常念岳蝶ヶ岳の登山ルートに比べ、いまいちマイナーな笠ヶ岳双六岳槍ヶ岳の登山ルートを、「北アルプス雄大な展望と高山植物が楽しめる人気コース」とメジャーな様子でクレジットするあたり、さすがは新穂高を仕切る奥飛観光開発である。この爽快な稜線をぜひ自らの足で辿ってみよと強靱に訴えかけるオーラ、まさに天空漫歩のタイトルに偽りなき内容だと思う。