四季穂高


ISBN:9784635912464
登山出版ではおなじみの山と渓谷社から発売されているDVD(http://www.yamakei.co.jp/products/detail.php?id=912460)で、一昨年の夏に購入。制作はハチプロダクション(http://www.3190.jp/)の表記がある。内容は、プロローグ、春二篇、梅雨、夏三篇、秋二篇、初冬、冬、エピローグで構成され、タイトル通りに穂高の四季を辿るものとなっている。上記「天空漫歩」に収録されている「穂高の四季」を45分の最新作品として大幅アップグレードさせたものと言える。素材はすべて新たにハイビジョン撮影され16:9のワイド画面収録、音楽もアコースティック風アレンジで紡ぎ出され、各シーンに同期していく様子が実に流暢である。映像作品として一般の人の鑑賞に堪えうるであろう、上質で見応えあるものに仕上がっている。全体を通じて小気味よいカット割りで、凝視するように見てもよし、やんわり垂れ流すように眺めてもよし、絶景続きで45分間があっという間に過ぎていく。

プロローグ 厳冬の夜明け
雪塵が舞う神秘のシーン。赤紫のベールが白い世界を染めあげる。
春1 春光
地響きのような音を立てて雪崩が墜ちる、雪解けの涸沢。ゴールデンウィーク、登山者たちの隊列と雪原に原色鮮やかなテント村。そして、雪の隙間から黒い岩肌が覗く穂高山頂からの眺め。
春2 新緑
上高地新穂高に広がる明るい春の息吹。雪解け水がせせらぎ、命を感じるシーンが続く。
梅雨 涸沢の芽吹き
雪渓が雨に打たれ、現れた土の上に顔を出すつややかな植物たち。花芽を垂らすダケカンバなど、あまり目にする機会はないものだ。
夏1 夜明け
いよいよ夏登山シーンの始まり。この時期に最も絵になる穂高は、やはり南岳からの眺めだろうか。
夏2 涸沢カールの花々
ヘリで雲を突っ切りって上空から眺める穂高の峰々。涸沢カールには、色とりどりのお花畑が広がる。
夏3 稜線のパノラマ
奥穂のピークを中心にぐるり旋回する空撮は、その近くにちょっとした街が存在しているかのように、さまざまな人々の姿を映し出す。陽が高く昇る時刻にはガスが湧き出し、ジャンダルムの難路に挑む登山者たちは、隔絶された異次元世界の扉に接しているかのようだ。わき起こる入道雲の下に轟く雷鳴、大自然を前にしたちっぽけな人間という存在に改めて気付かされる。
秋1 雲劇場
鰯雲に始まり、観る者自身の動きを捉えたブロッケン現象螺鈿の煌めきを魅せる珍しい彩雲、そして圧巻は、微速度撮影で大河のごとくうねる雄大な雲海。夕陽に染まる3000メートルの眺望は、雲の演出あってこその絶景である。
秋2 涸沢の紅葉
錦繍という言葉が最も相応しい。風は、草木のうねりを支配しつつ、天空には流れる雲の切れ間を描き、大地に光と影を演出する。1年のうちたった3日ほどの一瞬、涸沢が視覚に奏でる最高のシーンである。
初冬 新雪穂高
冬の入り口、うっすら雪化粧の岩肌。長く神々しい世界が始まる。
冬 風雪
夏には見られない低く重く沈む雲海。一瞬の晴れ間を過ぎれば、そこは命ある者にとって実に厳しい、風雪突き刺さる極限の世界である。
エピローグ 厳冬の穂高
突風に雪煙舞う極寒の穂高山頂。夏とはまったく違ったその姿を、再び旋回する空撮で捉え締めくくる。

穂高に魅せられた人にとってたまらない素晴らしい内容ではあるが、上記で挙げた「天空漫歩」に比べると演出色が強く、現実の登山体験と結び付けるには少々無理を生じるというか、異世界観を強く抱いてしまう内容ではある。いや、鑑賞作品として見れば、これ以上見事な穂高はまずお目にかかれないだろうこと、間違いなしの太鼓判。
ちなみに、自分にとって最も印象的だったのは、エンディングのスタッフクレジットとともに収録された、四季の短編カットだ。音楽なしの自然音が、不思議なほどのリアリティーで心に響き語りかけてくる。