花々の楽園

ほどなく弓折岳分岐に出ると、涼しい風が爽やかに抜け、今までの暑さはウソのように消し飛んでしまう。尾根独特の遥か彼方まで抜ける広大な視界が、爽快感に拍車をかける。足元の起伏も緩やかで、踵のピッチが上がり、まさにハイウェイと呼ぶに相応しい縦走路である。15分足らずで、大きな雪田に出た。

ミヤマキンポウゲハクサンイチゲコバイケイソウなど咲き誇るお花畑が、絨毯のように広がっている。最高の休憩地だ。ザックを降ろしてベンチに腰掛けていると、雪田で冷やされた天然クーラーの涼しい風が吹き抜ける。
周りの人に挨拶すると、日の出は撮れましたか?との言葉。今朝、鏡池に居合わせ、先に出発された方のようである。早速、撮影談義に華が咲く。
休憩を終え、歩き出す。楽園のように延々と続くお花畑は、地形に応じて刻々と花の種類が変わり、飽きることがない。稜線を峠のように越える地点では、オレンジに燃えるクルマユリが登山道の両脇を覆うかのように咲き誇り、すぐ降りたところには、黄金色のミヤマキンポウゲが強烈な太陽の光を浴びつやつやと輝いている。稜線からは目指す双六小屋キャンプ場が見えているし、時間もたっぷりあるので、安心して花々の撮影を楽しむことにした。
一生懸命、カメラのファインダーを覗いていたら、賑やかなおばちゃん達のグループが通りすがりに話しかけてきた。すぐそばにクロユリの群落があるという。えっ?と思って、そっちを見てもよく分からない。親切なおばちゃんが、グループを抜けて群落のすぐ近くまで行って指さしてくれ、やっと分かった。おばちゃん、どうもありがとう!

グループが休憩する場所に戻ったおばちゃん、「一番最初に見つけたのは私だからね」と自慢げに言う。周りのおばちゃん達は「この人、意地っ張りだから(笑)」と、私に向かって諭すように返してきた。「いいえ、本当に感謝します、良い写真が撮れましたよ」と、カメラの液晶に映るクロユリの姿を見せると、おばちゃん、とっても嬉しそうな笑顔を見せた。大自然の中で、皆、子供に帰っている。