ハイウェイ間近

7時30分、鏡平山荘を出発。ひょうたん池の脇を縫うように延びる木道が終わると、早速、急登が始まった。すでに太陽が昇り、暑い直射日光で汗がほとばしる。
30分くらいしたところで、一休みするのに絶好な踊り場に出た。あれ?どこかで見たような人物が先客で休んでいる。ワサビ平キャンプ場で見た、あの蛭子さんだ。軽く挨拶すると、先方もこちらに見覚えあるのか、気さくに話しかけてくる。
蛭子さん曰く、「いやあ、まいったねえ、こんなしんどい道とは思わなかったよ」。相づちを打つ私、「ほんとだねえ、この暑さ、テン泊装備担いでると堪えるね」。お互い、単独テント泊同士で連帯感のようなものができたようだ。「昨日は、双六まで行くつもりだったのに、まいっちゃって、鏡平で泊まっちゃったよ」との蛭子さんの告白に、当方もまったく一緒と言い、連帯感がさらに強まることになる。新穂高からワサビ平までのルートも上高地から横尾程度のものと思っていたのが、大違い。飛騨の林道、畏るべしである。
「今日ももう、ここでヘタレてますよー(笑)」と言う蛭子さんに、「いやあ、ちょうど森林限界過ぎたとこじゃないですか、この先はもうハイウェイですよ、大丈夫!」とゲキを飛ばす。この言葉は、私自身へも飛ばすゲキであった。
10分ほど休み、まだまだ腰の重い蛭子さんに挨拶して、先に出発する。期待通り、すぐに登山道は急登から緩やかなトラバースに変わった。後ろを振り返ると、鋭くそびえる槍ヶ岳と森林の丘陵に孤立する鏡平山荘が見える。登山でもしなければまずお目にかかれない、印象的な風景だ。