白馬八方尾根〜唐松岳 1泊2日


唐松岳への登頂を目指し、4/1(日)〜4/2(月)の2日間で白馬八方尾根に行ってきた。
高速バスで新宿を朝8時に出発し、白馬八方バス停には12時30分ごろ到着。バス停に掲示された地図を頼りに10分程度歩いて、八方尾根スキー場のリフト乗り場へ。現地は雪が舞って、とても4月とは思えない寒さだ。ゴンドラアダム→アルペンクワッド→グラートクワッドと三つのリフトを乗り継いで登る。

ゴンドラアダムは同時に4人程度乗れるキャビン型で、ロープウェイ感覚のリフトだ。アルペンクワッドとグラートクワッドはむき出しの席に腰掛ける形の3人乗りリフト。アルペンクワッドは強風の影響か、乗っている途中で何度か停止を繰り返す。乗り継ぎのため降りたところで、その上のグラートクワッドがたった今、運休になったとの連絡を受ける。リフト小屋を出てみると、ものすごい風と吹雪。急いで小屋に戻って目出帽とゴーグルを装着。念のため、グラートクワッドの乗り場に行ってみると、確かに止まっている。困ったなあと思っていると係員の方から「動かします」との声。地獄で仏様に会った気分だ。
リフトは降りたところで再び運転停止。リフト小屋を出ると、激しい風雪でブリザード状態。すぐ前にあるはずの八方池山荘さえよく見えないほどだ。歩くのがやっとの風圧を受け、よろよろしながら八方池山荘に着く。時刻は13時30分。風圧と凍結で入り口の扉がすごく重い。中に入ってみると、すぐのところが食堂の大広間。
ストーブ近くの席に先客のおじさんが2人いたので、様子を知るためしばし会話してみた。テントで泊まりたい旨伝えると、八方池付近は今日のような北風では逃げ場がないとのこと。扇雪渓まではとても行ける状態ではないので、これは厳しい。どうしてもキャンプするなら、雪洞掘って耐えるしかないようだ。
スマホで天気予報を確認してみると、風は夕方に向け少しずつ弱まることにはなっているが、朝見たときよりも風速は上がっていて、この付近の高度1900mは15m/s越えだ。朝の予報は15時時点で、高度1900mは13.7m/s・-5.9℃、高度2900mは22.2m/s・-10.1℃だった。
とりあえず16時頃で最終判断することにする。昼食用に持ってきたパンを食べ、おじさんたちと世間話。お二人とも70歳を越えているとのことだが、肌つやよく張りのある声で、どうみても60歳前後の風貌だ。ともに10代の頃から山登りをされている方なので、それはもう、興味深い話が尽きない。厳冬期の穂高・屏風岩登攀やヨーロッパアルプスなど、時代とともに変わった装備品の話なども合わせて、高名な方の著書で読むようなことを実体験として続々と語られる。
上空は時々青空が覗いて光が差すのだが、強烈な地吹雪はまったく止まずブリザード状態。キャンプは諦め、17時になったところで山荘のチェックイン手続き。素泊まりにした。夕食はシャウエッセンとグリンピースを入れたトマトリゾット風おじや、朝食は刻みベーコンと根菜を煮込んだ豚汁おじやだ。

山荘は電気が常時点くし、なんと、風呂もある。各部屋も個別に暖房が入っているのでとても暖かい。本来は相部屋だが、この夜の宿泊客は自分を含めて3人だけだったので、各自個室になるよう割り当ていただいた。とっても快適なのだが、暖房の関係で空気が極度に乾燥し、喉鼻が痛い。20時に就寝。0時半に目覚めてトイレなどを済ませた後、facebookに簡単な報告を書いて2時に再び就寝。
翌朝は4時に起きた。外に出てみると、激しい風はすっかり収まり空はうっすら星が見えている。あいにく東の空は地平線を厚い雲が覆っていて、朝焼けは望めなさそうだ。風や雪の状態が読めないので、自分は唐松岳へ行くのは十分明るくなってからにし、山荘まわりで夜明けの撮影をすることにした。

荘厳な雲海に感動。予想通り、朝焼けはダメだったが、見通し良い光を得て鹿島槍ヶ岳から五竜岳への凛とした眺めを撮ることができた。おじさんのひとりは、先行して5時頃に唐松岳に出発。

日の出とともに、やはり強風が戻ってきた。撮影と朝食を済ませた後、自分も出発。八方池付近までの路面は固くよく締まった雪質だ。

樺尾根との合流地点に上がるところは吹き溜まりになっていて、膝下ラッセルになった。尾根を上がりきるあたりから、風がいっそう強くなった。10m/sは越えているだろう。ダケカンバの樹林に入ったところで、先行していたおじさんに会った。この先から深い新雪で諦めたとのこと。
扇雪渓を過ぎて丸山手前をトラバースし始めるあたりで、パウダースノーの吹き溜まり。ふわふわなので腰までつかるラッセルでも体力はあまり消耗しないのだが、斜度が付いてくると蟻地獄のような有りさまで、こうなるとワカンも非力だ。
激しい突風が来た瞬間、目の前が真っ白になった。吹き上がったパウダースノーで、完全に視界が塞がれてしまった。子供のころ運動会で障害物競争に出たときの、手を使わず小麦粉の中に埋もれた飴を食べるというやつを思い出した。運動会なら笑っていられるが、周りに誰もいない極寒の山中で視界が完全に奪われるのは、底知れない恐怖。

突風の息継ぎで視界が戻ると、この丸山までの吹き溜まりを越えるのにいったいどれほど時間がかかるのか、途方もなく大変な思いがのしかかる。そして丸山を越えた先の風速は恐らく20m/s越え。帰りのバスの時間も考えると、とても登頂は無理。ここで敗退することを決断。
来た道を戻り、ダケカンバの樹林尾根のあたりで、山スキーの人と挨拶しながらすれ違う。しばらくしてから振り返ると、あの吹き溜まりをシールとビンディングで無事に突破したようだ。やっぱりスキーの浮力は絶大。
八方ケルンのあたりまで降りると、スノボのグループが記念撮影をしていたりで賑やか。突風で地吹雪が来るたび歓声が上がっていた。

山荘で行動食を摂り、リフトで下山。黄砂の影響か朝と違ってモヤっとし遠望は効かない。

スキー場は風穏やかでいい天気だった。