雪山実技第一回・谷川岳〜白毛門/天神平 1日目


首都圏は晴天が広がっていたが、途中乗り換え地点である水上駅でまで来ると、大雪が降っていた。
10時15分、土合駅に集合。挨拶に続いて、講習はまず、スパッツや手袋などの装備を身に着けるところから始まった。薄く雪が積もった駅前の砂利地で、講師の説明にしたがいアイゼンを装着する。必ず、軸足の反対側から装着し、外すときは反対に軸足側が先だ。急斜面などでもカラダを安定して支える目的とのこと。手袋をしたままでアイゼンを素早く着脱できるよう練習する。靴とアイゼンの相性に不安がある場合は、アイゼンの前爪だけを石段にひっかけ、そのまま全体重をかけても外れないかどうか見る。
総勢30名弱の参加者が、約7名×4班に分けられ、ここからは各班に講師が1名ずつ付く体制になった。さあ、アイゼン歩行開始!かと思いきや、今日はアイゼンは使わないという。せっかく付けたアイゼンだが、外してザックにしまう。今夜の宿泊地となる土合山の家は、駅からすぐ近くにあった。ここで今日の行動の説明を受けた後、いよいよ白毛門登山口へ向かう。
10分ほど歩いて着いた登山口から先は、見上げるような急斜面だ。ボタ雪の降り具合も増えてきて、足元はすでに2〜3cmほど積もっている。石や木の根が露出した上に湿った雪が被さり、気を抜くとズルッと転びそうだ。班ごとに列を組み、順番に登り始める。歩くペースは、かなりゆっくりだ。歩きながら、カラダの重心のかけ方、ピッケルの持ち方など、講師からさまざまな説明を受けた。講師の歩き方をお手本にし、その場その場で、雪山感覚をカラダに刻み込んでいく。一度にドサッ!と知識を詰め込まされるのではなく、ステップを追いながらアタマとカラダを同期させて教わる、とても分かりやすい内容だと思う。さすが、最高の講師陣である。
1時間ほど歩いたころだろうか、ちょうど良さそうな傾斜の緩い場所に出たので、大休止となった。行動食を摂る。風が強くなり、吹雪の様相になった。気温は-5℃ほどだが、アウター/薄物フリース/アンダーウェアの3枚でそれほど寒い感覚はない。それどころか、行動中は暑いくらいだ。
講師同士の打ち合わせがあった後、今回はここから降りる判断になったらしい。ちょっと物足りない感じではあるが、天候が思わしくないためだろうか。
登った道をそのまま下るだけなのだが、積雪が増えたこともあり、ちょっと怖さを感じる箇所が次々と現れる。こういう場所では後ろ向きに降りてもいい、ここではピッケルを離して岩を持ってもいい、といった感じで講師の説明を受けるわけだが、ひとりひとり自分に合った歩き方で良いとのことである。
全員が登山口まで降りきった後、簡単な説明があった。雪が積もっているからといって、アイゼンを付けたほうが良いとは限らない。今回のコースの場合、木の根にアイゼンの爪を引っかけて転びやすい。アイゼンにはアイゼン独特のリスクがあるから、アイゼンなしで雪道を歩ける能力を高めれば、それだけ行動範囲が広がる。ただし、アイゼンを付けたほうが安全な場所では積極的に付けるべきであり、その判断も雪山行動の大切なスキルとのこと。
土合山の家に着いた後、大部屋に全員集まり、雪山のリスクについての講義を受けた。これから半年かけて学べる技術には、フィックスドロープを張ってセルフビレイをとるような、危険な箇所をたった1人でも通過できるようにするスキルが含まれる。しかしこれは、たった1人で危険箇所に入って良いという意味ではない。例えば3人のグループで1人が事故にあったとき、1人が事故にあった人の対応をしている間に、もう1人が救助を呼ぶため行動するというシチュエーションが起こりうるから、どのような場合でも、1人で行動するスキルが必要になるのだという。講師自身が過去に経験されたアクシデントとして語られたものには、身近な例からエキスパートならではの例まであったが、そんな危ないところに行かなきゃ大丈夫、と思ってはならないのだ。各自のスキルに応じたリスクが、どんな場合にも付いてくるのだから。山では想定外のことが起こるのであり、想定外のことに対応していくスキルこそが、冬山では生死を分けるのだという。
講義の後、グループ分けがされ部屋割りが決まった。行動中の班は男女混成だったが、部屋割りは男女別にする都合上、班分けとは別のグループ分けになった。食事まで2時間以上空いているので、グループ順に入浴する。山小屋とは違って、民宿なみの設備があり、入浴できるのはありがたい。

夕食は、茹でガニや肉野菜の土鍋焼などが並んで豪勢な内容だった。ご飯の炊き具合がイマイチではあるものの、美味しい食事で大満足。この内容で1泊7900円は、ものすごく安いと思う。
食事の後は、再び大部屋に全員集まり、1人1人、順に自己紹介の時間となった。登山歴や講習会参加の理由など、さまざまな方の話を伺うことができたが、本当に意欲旺盛な方ばかり集まった印象だ。
その後は懇親会となり、遅くまで楽しい時間を過ごした。聞くところによると、雪山講習を受けた後、岩登り・沢登り講習などにも続けて参加する人が多いそうである。当初、クライミングを学ぶところまでは考えていなかったのだが、こんな楽しい雰囲気と最強の講師陣でステップアップしていけるなら、自分もやってみたいなあという気がしてきた。