残雪の燕岳・大天井岳 4日目

午前1時過ぎ、テントの大きなバタツキに目覚め、確認のため、外に出てみる。風向きがそれまでの西風から東風に変わったようだ。テント東面の横腹近くにピッケルを打ち込み、アンカーとした。東側の地平線は、雲がまだら模様にちぎれている。これは被写体的に良い兆候だ。期待しつつ、2時間ほど寝る。

午前4時、再び目覚めて外へ出てみると、期待は確信に変わった。この空ならイケる! 三脚とカメラ一式を担いで、テン場北側の見晴らし良い場所を確保。

地平線の雲の隙間から朝日が顔を出した。上空の雲は見事なパープルピンクに染まっている。

昨日の灰色を吹き飛ばすかのように、燕岳も槍穂高も鮮やかに染まった。

日が昇るにつれ白色光へ変化、雲が深い陰影を落とす。刻々と写真冥利に尽きる風景が眼前に広がる。
7時頃、ひととおり撮影を済ませ、テントに戻り、コーヒーと甘栗を摂った。

荷物を整理し、テントの外へ出てみると、安曇野側に広がっていた雲海が上がってきたらしく、ガスで視界が効かなくなった。ひょっとすると、ガスに覆われる直前には、絶妙のシャッターチャンスがあったかも知れないのだが、まあ、仕方ない。テントを撤収し、パッキング。
9時過ぎ、下山開始。合戦尾根の雪は相変わらずグズグズ。何度かズボリながらも、脚を慣らしてスピードを上げていくと、30分ほどで合戦小屋に着いた。

ここも人が途切れ、閑散としている。なっちゃん缶を買って喉を潤し、下山再開。第二ベンチでアイゼンを外したところ、意外に凍結箇所で難儀し、速度は落ちてしまった。結局、休憩時間を除き、燕山荘から中房温泉までちょうど2時間要して到着。

中房温泉で立ち寄り湯に入り、昼食は中房名物、地熱の蒸し鶏入りカレーと蒸し玉子を食べた。ビールを飲んでいい気分になっていたら、うっかりバスの予定時刻を逃してしまった。1時間半ほど、駐車場のおじさんが楽しい話相手になってくれたので、退屈することなく過ごす。1本遅いバスに乗り、穂高駅から鉄道で無事に帰宅。