雪山机上第三回・雪山歩行の基本と用語説明


机上講習の三回目は、雪山独特の用語説明を交えながら、基本技術について講義を受けた。

コースに応じた特徴と危機回避の知識

樹林帯/森林限界/稜線/沢筋/雪原/岩場のそれぞれに応じて、必要な技術と注意点がある。「このような危険がありうる」という想定を描けるようになれば、ルートはおのずと見えてくるようになるという。
最も危険なのは、雪崩のリスクが高い沢筋で、可能な限り、沢筋を通るルートは避けなければならない。といっても、通過コースから沢筋を完全に外すことは無理な場合が多いので、極力、通過時間を短くすることになる。また、本当にリスクが高い地点では、ザックの腰ベルトやピッケルバンドを外した状態で歩き、もしもの場合にはすぐカラダから外せるようにする。ピッケルバンドに手をかけていると、雪崩に巻き込まれた場合、下方に沈み落ちてしまうのだという。
意外にも雪原もリスクが高い場所で、トレースが消えてしまうと道迷いを起こしやすい。岩場で悪天候に遭った場合は、ハーケンを打つなりしてロープでカラダを留めておけば、安全性を高められる。
雪山独特な注意点として、他人のトレースがある。間違っている可能性があるし、クライマーが断崖から来た道を逆に辿ってしまう恐れもある。地図と地形を読んで判断することが必要だ。

アイゼンとピッケルを使った歩行技術

雪山というと、まずアイゼンが必須用具で、ピッケルはオプショナルなものと考えやすいが、実際は逆だ。ツボ足・キックステップによる登下降をピッケルを持って安定してできることこそが、基本中の基本なのだ。左足・右足・ピッケルの三点で三角形を保ちながら歩くと、理論上からも一番安定性が高い。そして、利き足(軸足)を意識したほうが良い。斜面に立った状態での8方向(山/谷/横/斜など)それぞれ左右足の向きと重心を図示した資料を見ながら、イメージトレーニングを行った。
アイゼンを装着した場合は、足の先にアイゼンがあることを常に忘れないこと。足裏の厚みで高くなっているし、前爪などの飛び出しもある。そして、なるべく多くの爪が雪面に刺さるよう、斜面と平行に足を置くことを心がけること。ただし、傾斜が強いときや、雪面が固くクラストして爪が刺さりにくいときは、特定の爪に力を集中させて叩き込む。ここでも、斜面に立った状態での8方向の資料を使って、イメージトレーニングを行った。

ピッケルによる滑落停止技術

滑落停止は、落ち始めた瞬間にすぐ行うことが重要で、加速してしまうと、熟練者でも止められる可能性は低くなる。だから、頭で考えてから体制をとるのではなく、初動でカラダを条件反射させるよう、繰り返し訓練しなければならない。1〜2日の訓練だけでは到底無理なので、機会あるたびに努力してトレーニングしなければならないだろう。
滑落停止の確度を上げるコツは「歯で止める」のだという。顔半分を雪面に押しつけるくらいの姿勢でないと、ピックに体重を乗せられないからだ。滑落停止訓練を真剣にやると、顔面に擦り傷ができることもある。でも、命を守りたかったら、躊躇してはならない。そして、滑落停止動作に入ったら、必ず足は曲げ上げて、アイゼンの前爪が雪面にかからないようにすること。捻挫や骨折を防ぐための重要注意事項だ。
止まったならば、まず、足を蹴り込んで、アイゼンの前爪を雪面に突き刺すこと。足元が確実に止まっていることを確認した後、ピッケルを突き刺し、それから起き上がる。
ピッケルによる滑落停止は、必ず止まるという確実性はないものだが、これに勝る停止方法がない以上、命を守るためには絶対に身に着けるべき技術だ。そして、加速して止まらなかったとしても、絶対に諦めず、助かるチャンスを信じて、繰り返しトライすることだと言われた。

次回の実技講習

次回は、富士山五合目で雪上歩行の実地トレーニングを行う。恐らく、このところの寒波と強風で雪面が固く締まっているので、アイゼン/ピッケルワークには最適な雪面が期待できるだろうという。チャーターしたバスで1月28日(金)夜に新宿駅近くから出発し、29日(土)・30日(日)で現地訓練する二泊二日の行程だ。
必要装備に、いよいよクライミングギアが加わる。
まず、ハーネス。冬期専用の簡易ハーネスでも良いが、新しく買うなら(今はその気がなかったとしても)いずれ夏期も岩登りで使うようになるので、両方に使えるものを用意するほうが良いという。冬と夏では着込むウェアの厚さが違うので、特にレッグ太さの調整幅があるものが必要だ。
カラビナは、オートロック式で片手で開けられる大きなものを3個。ティアドロップまたはオーバル型。
スリングは、120cmのソウンスリングを1本、安いナイロンで可。7φ×150cmのロープを2本、買うときに末端処理を依頼すること。
そのほか、持っているならヘルメット。