早春の西穂丸山 1泊2日


3月17日(土)から飛騨高山に帰省し、3月19日(月)〜20日(火)で西穂高岳の丸山へ行ってみた。当初は独標まで行くことを計画していたが、このところ連日、独標手前で事故が起こっていると聞き、丸山までに留めた。自分の技量的にも今冬はまだ雲取縦走しかしてなく、雪上歩行技術には不安があるし、今回の帰省の主目的はお彼岸と母の命日、そして旧友との再会だ。何より平穏無事に過ごすべき時と考えた。

新穂高ロープウェイを使って西穂高口から1時間ほど歩いて西穂山荘へ。運良く好天に恵まれ、若干のガスはあるものの爽快な青空のもとで白銀の山歩きを楽しんだ。夏道と違って急傾斜の直登道なので少々きついものの、山荘への到着はあっという間だった。心配だったプラブーツは、矯正が効いて靴ズレすることなく、足まわりも快適。しかし、ロープウェイで一気に標高差を稼いだ分、カラダが慣れず空気の薄さにはまいってしまう。ちょっと動いただけで、息がはあはあ、心臓もばくばくする。念のためワカンを持っていったが、今回はずっと安定したトレースの上を歩けたため、不要だった。ルートの大部分はノーアイゼンでも行けそうだが、西穂山荘間近の直登急斜面だけは、アイゼンが必要と思った。

西穂山荘までは風が緩く穏やかに感じたが、山荘から先は一変して強風に晒される。気温も-15℃くらいまで下がり、瞬間的には15m/s以上と思われる突風で思わず姿勢のバランスを崩しそうになった。厳冬期に近い気象状況だ。
カメラの三脚を立ててみたが、5kgほどのウエイトを吊してもときどき脚が浮いてしまう。危険を感じたので三脚使用は断念した。地吹雪で顔面に微細な雪氷の飛礫が当たって痛いためゴーグルを付けたが、カメラのファインダーに目を密着できないため視野が著しく狭まって設定モード表示が読めない。ゴーグルの着色ガラスごしでは色感覚もつかめないし、偏光ガラスで液晶画面も真っ暗になってしまう。突風の息継ぎのスキに、ちょっとだけゴーグルを外してカメラを操作するのだが、グローブをはめたままではボタン操作もままならない。かといってグローブを外すと、たった10秒ほどで手の甲がひりひりしてくる。過酷な環境をつくづく思い知った。膝を雪面に着けても強風に煽られカラダがふらつくような中では、フレーミングも難しい。本当に勘が頼りだ。しばらくすると、カメラなどの機材に霧氷が付着してきた。地吹雪といっしょに吐息や汗の揮発した水蒸気が凝結してしまうのだろう。
初日は夕景を狙ってみたが、陽が傾くにつれガスがどんどん濃くなってしまいダメだった。

二日目の朝は、山荘裏手で笠ヶ岳のモルゲンロート撮影を狙ってみたが、赤く染まるタイミングは西穂の尾根に陽が遮られる位置関係だった。西穂山頂方向は逆光になるし、たぶん、丸山に登って焼岳や乗鞍を狙うのが良いと思う。
今回、西穂山荘の小屋泊としたが、朝食時刻は5時15分だったため日の出まであまり余裕がなかった。弁当をお願いする手もあるが、せっかくの小屋泊で暖かい味噌汁を飲めないのももったいない。また、荷物は朝7時までにはパッキングして小屋の入り口脇に出しておく必要もある。撮影に徹するならば、やはり、時刻の縛りを受けないテント泊にすべきだろう。西穂山荘のキャンプ地は風が吹き抜けず、とても穏やかなようだ。なだらかで整地もしやすく、トイレなどの環境も良い。ロープウェイ駅から山荘までアプローチの近さ、ルートの歩きやすさもあって、大荷物でも苦にならないだろう。次回はぜひとも、テント泊で来てみようと思う。景観的には恐らく2月が最もフォトジェニックなタイミングだろうが、岩肌が見え始める4〜5月頃も面白そうだ。

なお、独標まで行かれた方の話では、トレースの上だけを踏んで辿る限りは問題ないとのことだった。ただし突風が強烈で、直下のところは四つん這いでなければ進めなかったようだ。トレースのない雪面はアイゼンが刺さりにくいほど固いアイスバーンだが、場所によっては薄くて踏み割ってしまう恐れがある。踏み割った下にはサラサラのパウダースノーが詰まっていて、これまたアイゼンが効かない雪質だ。突風でバランスを崩したり、うっかりアイゼンをひっかけ転んだりすると、滑り落ちてまず停まらないだろう。雪の北アは、ミスがまったく許されない過酷な場所なのだ。