晩秋のクリヤ谷

11月2日(土)、日帰りでクリヤ谷下部に行ってきた。
もともと2泊3日で双六方面のテント泊を予定していたので、夜行バスの毎日アルペン号は睡眠不足を避けるべく三列シート車両「プレミアム」を予約していた。日帰り登山ではもったいない気もしたが、かといってキャンセル料を支払うのはもっともったいなく、予約したプレミアムでそのまま行くことにした。予約時点の降車地は新穂高温泉だったが、行き先をクリヤ谷にしたので中尾高原口に変更。早朝6時ちょうど頃で現地に到着した。
中尾高原口では、砂防資料館のトイレはやはりカギがかかって使えない。さらに、夏は使えた水道も使えなくなっていた。この時期は凍結の恐れがあるので止められているだろうと予想したのが的中、バスに乗る前に水筒へ詰めておいて正解だった。もっとも、登山口から1時間ほど歩けば沢と出合うので、砂防資料館近くの自動販売機で飲み物を買っても対応できる範囲ではある。


登山口付近はまだ緑が生い茂っていたが、中尾方面など周辺の風景は紅葉真っ盛り、期待が高まった。歩き出してすぐ、クライマーパーティー2組と、笠ヶ岳に向かっていると思われる大型ザックの単独行の方に出会った。以後は、まったく人に会わない。



台風の影響か、登山道には落ち葉がいっぱい。大きな朴葉は見慣れない人だとギョッとしてしまうだろうが、飛騨人としては御馳走を連想し笑みを浮かべてしまう。一般的な登山道なら、ふかふかに落ち葉が積もっているとクッション効果で快適なのだが、ここクリヤ谷では鋭い石の起伏で落とし穴のような怖さがあり、気が抜けない。傾斜が急な場所では、湿った落ち葉が苔蒸した石との相乗効果で滑りやすさ倍増。この歩きにくさは、パリエーションルートに近いものがある。


1時間ほど歩いて穴滝に到着。夏に生い茂っていたツルアジサイは、すっかり枯れてしまっている。登山道から沢筋に降りて、滝の撮影にトライしてみた。三脚を立て、水の軌跡をスローシャッターで撮ったりしたのだが、岸からでは構図の制約が大きく画的になかなか難しい。追究するなら沢靴を履いて水に浸る覚悟が要ると感じた。いずれ紅葉のベストシーズンを狙って本気の撮影に挑むときには、沢装備一式を持って来よう。


穴滝のすぐ上にある第一渡渉点は、飛び石で渡れる範囲ではあるが、夏に来たときよりも水量が多い。日帰りで装備を軽くしたのが助けになった。ここでも水流を狙って撮ってみたが、直射日光が差し込んで明暗差が大きく難しい。恐らく、朝靄の立つようなときが一番良いのだと思う。


第一渡渉点を越え、高巻くような感じで少し登った後は、ゆるやかな道が続く。ふと後ろを振り返ると、透過光で鮮やかに浮かびあがったモミジがあったりで、楽な道ながら足取りはゆっくりだ。


錫杖沢出合いが近くなると、ドーンと錫杖岳の岩峰が見えるようになった。真っ青に抜ける空とベタ順光を受けた岩峰は、写真的にちょっと残念な環境だ。そして肝心の紅葉はすっかり終わっていて、これまた期待外れ。


続いて撮影に向かったのは、第二・第三渡渉点の滝と淵だ。光がちょうど良い感じに淵に差し込み、淵の底が波面のプリズム効果で孔雀の羽のように彩られている。この美しさをどう写真に活かせば良いのか、自分の技量不足を強く感じてしまう。また、穴滝での撮影と同様、水に足を突っ込む覚悟がないと構図もまとめにくい。


ひととおり撮影を楽しんだ後、錫杖沢出合いまで降り戻って、錫杖岳への取り付きルートを確認してみることにした。錫杖沢出合いでビバークされているクライマーさんのパーティーは2張だけだった。錫杖沢を少し登ると、右側(左岸)に入る目印のテープがあり、沢よりは楽な登り道ができている。しかし、ここでアクシデントに気付いた。明らかに靴のフリクションが足りない。不審に思ってソールを確認すると予想以上にすり減ってつま先は丸坊主、厳しい状態だ。今年は悪天を避け慣れた道ばかり歩いたおかけで靴の汚れが少なく、チェックを怠ってしまった。ソールは昨年の春先に替えたばかりだし、昨年はあまり歩いてなかったのでまだまだ大丈夫と思っていたのだが…。


左岸の道を登り始めてすぐの標高1600メートル付近で、紅葉限界点に達した。上はずっと落葉した木々が続いて面白い風景とは出会えそうもないし、靴の状態も良くないので、諦めて降りることにした。


錫杖岳の岩峰は、昼頃の光が立体感を引き出して写真映えするタイミングと思うが、12時ちょうどで雲が湧き出し、あっという間に空を覆い尽くした。これにて撮影チャンスも終了。


午後2時頃、無事に下山完了。登山口近くにある無料の温泉「新穂高の湯」は10月末で終了していた。例年ならばオフシーズンでもう閉まって当然なのだが、今年はまだ周辺の紅葉を楽しめる状況で惜しい感じだ。
中尾高原口バス停の間近まで来たところで、ケータイにガールフレンドから着信。前夜に送ったはずの出発連絡メールがまだ届いていないとのことで、心配しての連絡だった。ありがたい電話なのだけど、ちょうどバスの時刻ぎりぎりに間に合わず、目前で通り過ぎるバスを確認、悔しい思いをしてしまう。
次のバスまでは1時間ほど。がっかりしつつ待ち始めたところで、不意に「また会いましたね」と声をかけられた。今年、小池新道で何度も会ったパワフルな方の顔があった。昨日、上高地から入山して槍ヶ岳山荘に泊まり、今朝は奥丸山と中崎山を経由して新穂高に下山されたとのこと。奥丸山新道は使わず、登山道のない中崎尾根をヤブ漕ぎで辿るという、何ともマニアックなルートだ。良かったら平湯まで乗って行きませんか?とのありがたい言葉をいただき、その方の車に同乗させていただいた。ラッキーとアンラッキー、どこで何があるか分からない。その方との出会いとともに、ガールフレンドにも感謝。